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2009.08.03

お竜(りょう)の葬儀(3)

「じつは、長谷川さま。お(かつ 31歳)の嘆きようが、尋常ではないのです」
葬儀の翌日である。

焼香に訪れ、仏間に招じられた銕三郎(てつさぶろう 27歳)に、〔狐火(きつねび)〕の勇五郎(ゆうごろう 52歳 初代)がこぼした。

「おどのは、どこに?」
「狂乱に近いので、引き込みにいれていた彦根を引きはらわせ、お(きち 37歳)に看させております」

は、 勇五郎が小田原に囲っていた妾だが、本妻・お勢(せい )が病死したので、おが産んだ子・又太郎(またたろう 15歳)と京都へ引きとられ、本妻の子・文吉(ぶんきち 15歳)とともに、店からすぐのしもた屋で暮らしている。

ちゅうすけ注】『鬼平犯科帳』文庫巻6[狐火]p124 新装版p132

高級骨董舗の〔風炉(ふろ)屋〕のほうには、若い妾・お(しず 24歳)が、店の者に「小(ちい)ご寮(りょ)はん」と呼ばれて、勇五郎といっしょに起居していた。

店の小僧が、おを連れてきた。
長谷川さまッ」
仏間へ踏みこむなり、銕三郎の膝の上に身をくずして泣きつづけた。

「おどの。泣いていいなら、拙もおことのように泣きたいのだよ。だが、そうもしていられないのだ」
「おお姉(ねえ)さんがいなくなってしまった---あたし、どう生きていけばいいのか---」
「拙が、おどのに頼みたかったことを、おが引き継いでやってくれると、うれしいし、お竜どのも、あの世から、おどのの所作を見守ってくれるとおもうのだが---」
「おお姉さんの代わりを、あたしがするのですね」
涙声ながら、おの正気がもどりはじめたようである。

「〔狐火〕のお頭(おかしら)。おどのを、拙にお預けくださいませぬか?」
「おの気持ちしだいです」
「お頭、あたし、お姉さんの代わりをつとめさせていただきます」

が、おを離れへ連れて消えた。
「お頭。わけはお訊きにならず、お耳になさったこともこの場かぎりで、お忘れくださいますか?」
銕三郎が、勇五郎の眸(め)をしっかり見据えると、
「よろしいですとも。この勇五郎は、ずっと、長谷川さまのお味方です」

を、禁裏御用の老舗の一つに上女中として潜入させたいので、信用のおける身元請人(うけにん)をたててほしいこと。潜入させる老舗を教えてほしいこと、を銕三郎が言うと、
「用向きによって、老舗のえらび方が違ってきますが---」

「しばしば、納品する商売か、ときどき、高額のものを納める店の、どちらかです」
「しばしばのほうだと、さしあたっておもいつくのは、茶うけの菓子、多葉粉(たばこ)、酒と肴、紙類でしょうかな」

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「京菓子は気づかいが細かそうだから、さしあたっての狙いは、紙屋か酒・肴屋かな」

参照】2008年10月18日[お勝というおんな] () () (
2008年10月21日[お雪というおんな] (
2008年11月27日[諏訪左源太頼珍(よりよし)] (
2009年1月23日[銕三郎、掛川へ] (
2009年6月6日[火盗改メ・中野監物]清法(きよかた) (


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