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2009.08.02

お竜(りょう)の葬儀(2)

「明日の夜、目眩(めまい)するほど頭がまわるように、実(じつ)を進ぜよう」
(とよ 24歳)に、そう約束したときには、お(りょう 享年33歳)の通夜が、まさか、今夜になるとは、銕三郎(てつさぶろう 27歳)はおもっていなかった。

それが、通夜には顔を出さないでくれと、〔狐火(きつねび)〕の勇五郎(ゆうごろうに 52歳 初代)に釘をさされてみると、お(りゅう)があわれな気にとらわれた。
溺死した晩に、まんじりともしないで、その声、その目つき、肌の丸み、高まりのはげしさ---を、あたかもおを抱いてでもいるようにおもいだしながら、ひとりきりで通夜をしたことはしたが、
(今夜が、表向きの通夜というのなら、もうひと晩、独り通夜をしてすごすか)

きめたとき、小女が文をとどけにきていると、女中が廊下から伝えた。
玄関に出てみると、〔千歳(せんざい)〕の小女であった。

結び文には、

  真葛(まくず)ヶ原 なびく秋風 吹くごとに
       阿太(あた)の大野の 萩の花散る

例のように、『万葉』のものらしい和歌が記されていた。

(おと、2人通夜の供養を、おは微笑みながら喜んでくれるかもしれない)
ひとりよがりの勝手なきめつけをして、腰に大小をおとし、〔津国屋〕の番頭に、
「四ッ(午後10時)までに戻らなかったら、表戸は戸締りしてよろしい」

番頭は、馴れたもので、表情もかえず、誰にでもいう、
「お気をつけて、行ってぇきやはりませ。お早いお帰りを---」
矛盾したようなことを投げただけであった。

〔千歳〕は、すでに表戸をしめていた。
銕三郎が入ると、おは桟をおとし、
「あれほど、しっかり、お約束なさったのに、いらっしゃらないような気がしたもので、出すぎた遣いを出しました」

「通夜だったのだが、行かなかった」
「あのお人の?」
「うむ」

「では、2人で、ここで、通夜をしましょ」
は、仲間うちの風聞で、通夜の仏が、〔狐火〕のところの「おんな軍者(くんしゃ 軍師)」のおであることはとっくに耳にし、気がついていた。
それを言うと、自分の素性があからさまになるので、しらないふりを装っている。

「お幾つの方でしたの?」
冷や酒を酌しながら訊く。
「そういえば、33はおんなの厄であったな」
「33---ちょうど、おんなざかり---」
「おんな男であった」
「それなのに、銕三郎さまと?」
「おんなに、なりきってみたかった、のであろう」
「罪な方---いえ、お得な方」
「奇妙に、気が合った」
「私とは、躰が合っただけですか?」
「それだけなら、こうして来てはいない」
「うれしい」

湯をすまし、寝床に浴衣姿で横たわり、
「私、死にました。私をいとしい方とおもい、死姦をなさってみて」
「これは、まこと、通夜」

眼を閉じ、まっすぐに寝ているおの腰紐を抜き、浴衣の前を開き、目頭と唇をなぜ、吸い、乳房をつかみ、
「おお、冷たくなったのだな、よし、いまに、温かくしてやるぞ」

太股の茂みの湿りをたしかめ、両足の親指をもって開き、舌先で舐め---

池波さんの文章を借りる。

化粧の気もないのに、女体からたちのぼる汗のにおいが、茴香(ういきょう)のような芳香をはなった。

死姦のはずが、小半刻(こはんとき 30分)もしないうちに、おさえきれなくなったおは、たちまち銕三郎の上にのっかり、はげしく動きはじめてしまった。

_360
(湖竜斉 イメージ)

「地獄の鬼も顔負けの力みようだな。咬戯は、なんといっても、生き仏にかぎる---」
は、くっくっと笑いを殺してあえいでいる。

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