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2010.04.14

お勝からの手紙(3)

「化粧(けわい)読みうり」を請けおっている元締衆のうちで、まだ、化粧指南師がととのっていないところがあったかな?」
平蔵(へいぞう 29歳)から事情を聞いた権七(ごんしち 42歳)は、一瞬かんがえ、
「そういえば、〔丸太橋(まるたばし)〕の元締代理(雄太 ゆうた 40歳)が扱っている、日本橋通3丁目箔屋町の〔福田屋〕の指南師が、忙しすぎて躰がもたないとかこぼしていると聞きやしたが---」
「〔福田屋〕なら、お(かつ 34歳)が化粧指南師をはじめた店だ。〔丸太橋(まるたばし)〕の元締に、主(あるじ)・文次郎の顔なじみのおをどうであろうと、あたってみてもらえないであろうか?」

合点した権七は、夕餉どきにもかかわらず、丸太橋へ出向いた。

翌夕、下城して帰宅した平蔵を、門番部屋で権七と〔丸太橋〕の雄太(ゆうた 40歳)、それに〔福田屋〕の一番番頭・常平(48歳)が待っていた。

参照】2010年1月20日[日本橋通3丁目〔福田屋〕]

「着替えてくる」
着流しであらわれると、権七が案内にたち、菊川橋西詰の酒亭〔ひさご〕へみちびいた。
それぞれの盃が満たされたところで常平が、
「いつもお目にかけていただき、ありがとう存じます。まずは、お口よごしを---」

〔福田屋〕、とくに主の文次郎は、自分が見つけてきたおが出戻ってくれるのは大よろこびである。
いまいる化粧指南師お(せん 27歳)も、仕事が軽くなることに異論がないばかりか、京仕込みの技法がじかに見習えるのだから、先輩として立てるといっていると。

参照】2009年6月6日~[火盗改メ・中野監物清方] () () 

丸太橋〕の雄太も、
長谷川さま。こんどの〔化粧読みうり〕のことでは、人びとの気持ちの底にあるのがどういうものかということを気づかせていただきやした。八幡さまの境内に仮店をだしている連中も、お披露目の力というもののこわさと効き目を肝に銘じたようでようでやす」
手ばなしであった。

わがことのように、目を細めて聞いていた権七が、
「じつは、元締衆が、長谷川さまを柳橋かやぐら下あたりにお招きして、お礼の宴をはりたいと申しておられやす」
「気持ちはありがたいが、このことがお上に聞こえると、拙が困る。丁重にお断りしておいてほしい」

「旦那、いえ、長谷川さま。千住(せんじゅ)宿の元締〔花又(はなまた)〕の茂三(しげぞう 60歳)が1枚、加わりたいもんだといってやしました」
「それは、元締衆と、〔耳より〕の紋次(もんじ 31歳)どの、それに権七どのがお決めになることです。拙がかかわることではない---そう、〔花又〕の元締にお伝えください。千住宿の元締が加われば、品川宿、新宿の元締も黙ってはいないでしょう。そのあたりまで目くばりして、談じてください」

丸太橋〕がうなずき、平蔵の盃に注ぎ、
「長谷川さまが元締衆の招きをお断りになったために、集まりの口実が遠のきやした」
「おや、いつも集まっているのではないのですか?」
「それが---」

〔野田屋〕の常平番頭が、卒なく口をはさんだ。
「まもなく上方から、出戻ってくるすご腕の化粧指南師・おの迎える宴なら、長谷川さまもお加わりになるのでは---?」

平蔵権七に釘をさした。
「〔音羽(おとわ)〕の元締のところのご新造・お多美(たみ 33歳)どのに筋をとおしておくように---」

参照】2019.2.16[元締たちの思惑] (

参照】2010年4月12日~[お勝からの手紙] () () (4)  (

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