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2009.09.28

お勝の恋人(3)

御節(おせち)を小皿にとりわけているお(かつ 明けて32歳)の仕草を見やりながら、銕三郎(てつさぶろう 明けて28歳)は、つい、お(りょう 享年33歳)のことを考えていた。

(生きていれば、いま、おれがこうして坐っている場所におがいて、おの箸さばきを見ているんだろうな)

は、去年の11月の初め、銕三郎に会うために、夕闇の中を彦根から小舟を出して大津に着く寸前に、突風にまきこまれて湖水に投げだされ、水死した。
知りあったのは、〔蓑火みのひ)〕の喜之助(きのすけ あけて51歳)の軍者(ぐんしゃ 軍師)としての智力をつくしていたおに興味をそそられたこともあるが、おんなおとこ役という性の数奇さに興をおぼえたこともあった。
そして、29歳のおの最初で最後の男になった。

参照】2008年11月17日[宣雄の同僚・先手組頭] (8

14年前、14歳のときに、ぐうぜん知り合った〔荒神こうじん)〕の助太郎(すけたろう 50すぎ)という盗賊の頭が、おんなおとこのお賀茂(かも 30すぎ)にややを産ませたことをしったからである。

ちゅうすけ付言】〔荒神〕の助太郎は、文庫巻22[炎の色]の女賊〔荒神〕のおの父親である。

(これも言ってみると、なにかの縁(えにし)というものであろう)
つい、笑いを洩らした。

「なにがおかしいのです?」
「いや。おとも、ふしぎな縁だと、おもってな」
「お若い奥方がいらっしゃって、こんな婆ぁで、お困りなんじゃ、ないんですか?」
「知られないようにしないとな」

酒を2,3盃呑むと、おが床をのべようとした。
「あ、きょうはやめておこう」
「姫始めですよ。それとも、奥方となさるお約束ですか?」
「そうではないが、湯屋が開けておるまい」
「湯屋がどうか?」
「房事の臭(にお)いを洗いながせない」
「終わったあとで、そこをしっかり拭いてさしあげます」
「いや、ものだけではだめなのだ。房事の臭いは躰中に残るのだ おんなは鼻がきく」

そのときである。
「お師匠さん、お乃舞(のぶ)どすえ」
初荷用の半被(はっぴ)は家で脱いできたらしい、せいいっぱいの晴れ着すがたの14,5歳のむすめが、銕三郎を見てぎょっとたように立ちすくんだ。

(14,5歳のときのおまさに似ている)
黒くてぱっちりした双眸(りょうめ)のせいであった。
唇はお乃舞のほうがぽってりしている。
(そういえば、おまさも、明けて17のむすめざかりだ)
父親の〔たずがね)〕の忠助(ちゅうすけ 5Oからみ)が寝こんだことは、久栄(ひさえ 21歳)から聞いている。

「姫始めがきたようだ。おれは用なしだ」
つぶやいてた立ちあがった。
「いやなさま」
は悪びれることなく、お乃舞に笑顔を向け、
「いのよ。お上んなさい。この家の家主の初瀬さまを引き合わせてあげます」


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