〔貝野(かいの)〕の吉松
『鬼平犯科帳』文庫巻17、長編[鬼火]の終末にチラッと語られる本格派の盗賊〔名越(なごし)〕の松右衛門の配下だった〔貝野(かいの)の吉松。
(参照: 〔名越〕の松右衛門の項)
かつて松右衛門が面倒を見、いまは駒込のはずれで居酒屋〔権兵衛酒屋〕の主となっている元旗本の永井弥一郎とその連れ添い・お浜を見つけ出し、仲間になれとしつこく誘ったのがこの吉松である。
〔名越〕の松右衛門は、小網町の線香問屋〔熊野屋〕作兵衛方へ押し入ったとき、手代と小僧あわせて4人に重傷をおわせたことを、お盗めの道にはずれたと恥じ入り、一味を解散し、自分は飄然と生まれ故郷の伊勢へ身を隠した。
一方の〔貝野〕の吉松は、「松右衛門お頭のやり方は、時勢に合わねえ」と、凶暴な浪人・滝口金五郎(43歳)をを新しく頭にいただき、非道な盗めを始めていた。
年齢・容姿:書かれていないため、不明。
生国:伊勢(いせ)国員弁郡(いなべこうり)西・東貝野村(現・三重県員弁郡北勢(ほくせい)町西・東貝野)。
播磨国神崎郡神東郡貝野村も候補にしたが、〔名越〕の松右衛門の生国が「伊勢のどこか」とあるので、北勢町をとった。
探索の発端:鬼平の暗殺を請け負った浪人の一人が、大身(7000石)・渡辺丹波守の下谷田圃にある下屋敷へ出入りしたことから、医師・吉野道伯の関屋村の寮が盗人宿になっていることがつきとめられ、賊たちが京橋川ぞいの菓子舗〔加賀屋〕に狙いをつけていることもわかった。
結末:菓子舗〔加賀屋〕へ押し入ろうとする寸前、一味の20名とともに、〔貝野〕の吉松も逮捕された。これまでの殺傷ぶりから、死罪であろう。
つぶやき:盗賊浪人・滝口金五郎一味とすれば、〔名越(なごし)〕の松右衛門の一団のことを知っている永井弥一郎とお浜を生かしておくといつ情報が漏れないともかぎらないと憶測して襲撃した長篇の発端に、鬼平がからんでくるとは、おもい寄らなかったろう。
ということは、読み手も想像の外---ではあるが、ミステリーとしては、謎の底はそんなに深くはないのが惜しまれる。
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