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2005.10.04

元同心・高松繁太郎

『鬼平犯科帳』文庫巻10に収められている[消えた男]の題名になっている消えた男は、火盗改メ・堀帯刀組から消えた元・同心高松繁太郎(当時27,8歳)だった。
わずか2年間のあいだに、江戸市中から近郊にかけて押し込み20件、殺傷68名という非道なことをした〔蛇骨(じゃこつ)〕の半九郎一味を内偵していた同心・高松繁太郎は、〔蛇骨〕の下で働いていた女賊お杉(30歳)と接触ができ、30両の支度金でお杉を逃がすことを条件に、〔蛇骨〕一味の盗人宿を聞き出すことにしたのだが、堀組は金を用立てることを拒んだ。
(参照: 〔蛇骨〕の半九郎の項)
火盗改メに愛想づかしをし高松は、佐嶋与力あての置手紙を残して役宅を出奔したが、お杉をともなったために、お杉の男だった〔笹熊(ささくま)〕の勘蔵に恨まれ、つけ狙われることになった。
(参照: 〔笹熊〕の勘蔵の項)

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年齢・容姿:この篇のときは、35,6歳。色白で、でっぷり肥えた躰つき。
生国:先手弓第1番組(堀帯刀組)の組屋敷で同心の子として出生したろうから、江戸・牛込山伏町(現・東京都新宿区弁天町)。

探索の発端:愛宕権現に詣でた筆頭与力・佐嶋忠介は、参道で町人姿の高松繁太郎とであった。近くの料理屋〔弁多津〕で酒を酌みかわし、語りつくし、再会を約して別れたところ、高松は襲ってきた相手を刺殺した逃走。
密偵たちに被害者の首実検をさせたところ、〔蛇骨〕一味にいて、のち、〔血頭(ちがしら)〕の丹兵衛の口ききて〔野槌(のづち)〕の弥平のところへきた〔笹熊(ささくま)〕の勘蔵だと、〔小房(こぶさ)〕の粂八が証言した。
(参照: 〔血頭〕の丹兵衛の項)
(参照: 〔野槌〕の弥平の項)
(参照: 〔小房〕の粂八の項)
粂八は、かつて〔笹熊〕の勘蔵につれてゆかれた品川・妙国寺(品川区南品川 2- 8-23)門前で蝋燭屋をやっている叔父の六兵衛をのぞくと、半月ほど前に元同心・高松が訪ねてきて、中目黒の松久寺持ちの小屋に仮住まいしていることを勘蔵へ伝えてくれ、といいのこしたという。

結末:松久寺のお杉の墓の傍らの一本杉の下の墓へ詣でていた。信州・上田で病死したお杉は、父親の墓の隣へ埋めてほしいと懇願したからである。
そこへ現れた鬼平は、高松がお杉と組んで盗み生活していたことは忘れてやるから、密偵となって助けてくれないか、と頼んだ。高松繁太郎にいなやはない、喜んで受け入れた。
密偵として、高松はみごとな働きをしたが、蝋燭屋六兵衛が雇った仕掛人に惨殺された。

つぶやき:蝋燭屋六兵衛は、お杉のことを、「大年増で、小肥りで、盤台面(ばんだいづら)で、金をもらっても抱きたくない」という。
〔笹熊(ささくま)〕の勘蔵は、「こんな躰をしている女が、いようたぁ思わなかった」と、寝取られてことを根にもって、8年間も高松繁太郎をつけ狙った。お杉がきらったのは、〔蛇骨〕一味の血も涙もない非道な仕事に疑いをもたない勘蔵に愛想づかしをしていたのだが。
高杉繁太郎のお杉観は、「何事にも、いさぎよい女であった」「男らしい男のように、いさぎよい---」女だから、何年間もいっしょに暮らせたのである。
いさぎよい、とは、立てる---ときめたことは立てとおし、そのことについては弁解や後悔をしないということでもあろう。

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コメント

おしま金三郎を読んで同心とは何だろうかと思いました。
同心は武士、町人になるのに抵抗はなかった
でしょうか、武士と言っても職を離れれば食うのに困るので町人になるのかな、 「武家の
商法」で武士は小さいときからしつけられているので腰をかがめ揉手の町人になるのは難しかったようです。 てっとり早く盗人になるのは
納得いきませんが「貧すればどんする」で仕方がないのかなと考えています。

投稿: edoaruki | 2005.10.04 20:55

>edoarukiさん

同心は、武士とはいえ、30俵2人扶持だから、最低のクラスの武士です。
まあ、屋敷は100坪ほどもらっているから、地代・家賃は必要ないけれど。

でも、2人扶持がつけられているから、小者と下女は雇わないと、ね。

だから、武士としてのそれほどプライドはそれほど高くはなかったと見ます。

それに金三郎の場合は、おしまという現役(いまばたらき)の女盗っ人がついているし、当人だって非合法すれすれの探索をしていたのだから、盗みの知識も充分にあっただろうし、あんがい、手軽に身を落とせたのでは---。

投稿: ちゅうすけ | 2005.10.05 13:13

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