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2005.10.03

座頭(ざとう)・彦の市

『鬼平犯科帳』文庫巻1の---ということは、シリーズが始まったごくごく初期の---[老盗の夢]で、お頭の〔蛇(くちなわ)〕の平十郎(40がらみ)から、〔蓑火(みのひ)〕の喜之助お頭(67歳)の帰り盗めを助(す)けてさしあげるようにいわれ、〔蓑火〕の指示で、新宿・麹屋横丁に家を借り、かねて身につけていた按摩の術で、四谷御門外の蝋燭問屋〔三徳屋〕へ出入りしていた。
(参照: 〔蛇〕の平十郎の項)
(参照: 〔蓑火〕の喜之助の項)
しかし、〔蓑火〕が臨時に雇った3人と相討ちのかたちで果てたので、[座頭と猿]では〔蛇〕のお頭の命令で、〔三徳屋〕の当主の姉(60歳)が嫁いでいる、愛宕下に屋敷がある表御番医・牧野正庵方へ引きあわせてもらい、治療にかよっている。
その縁で、愛宕権現下の茶店で茶汲みをしていたおその(20歳)を見出し、20両の支度金で同棲をはじめていたが、なにせ、おそのは卯年の女なので、あのときの狂いようがこたえられない、彦の市は昼間でもいどみかかる。
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愛宕下の茶店(『江戸名所図会』部分 塗り絵師:西尾 忠久)

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年齢・容姿:50男。茄子の実のような鼻、うすい唇。目あきだが見えないふうを装っている。
生国:目あきなのに按摩の修行をしたというから、そういう掟てやぶりができるのは江戸か上方だろうが、いちおう、不明としておく。

探索の発端:彦の市の執拗で狂的な性愛に怖れを感じたおそのは、病父の暮らす長屋に1年前から住みついた小間物の行商をしている徳太郎(25歳)とできた。
おそののあさぐろいが凝脂に照りかえった乳房から脇へ徳太郎がつけた紫色の斑点に、彦の市の嫉妬の炎は燃えた。
一方、おそのの病父が亡くなった夕べ、徳太郎はいっそ、徳の市を刺殺してしまおうと麹屋横丁へ行ったが、逆に、外から帰宅してきた彦の市に殺されてしまう。彦の市はいそぎ逐電。
おそのも調べられたが、彦の市の正体も徳太郎が大盗〔夜兎(ようさぎ)〕の角右衛門の手の者だとはしらないから釈放され、ふただび愛宕下へ勤めに出たが、火盗改メの目は、彼女にそそがれていた。
(参照: 〔夜兎〕の角右衛門の項 )

結末:話は文庫巻2に収録の[蛇の眼]へ飛ぶ。
おそのの女躰が忘れられない彦の市が、愛宕下の茶店へあらわれたところを、同心・酒井祐助に捉えられた。
彦の市の自白により、火盗改メは、相模の山中の水之尾の盗人宿へ急行した。

つぶやき:一つ短篇に登場した人物が鎖の輪の役目をして、次の物語につなげていく---『鬼平犯科帳』の構想を、当初、池波さんは短篇を連鎖させていくつもりでとりかかったとおもう。彦の市もそうした人物の一人である。
1年か2年で終えるはずだったシリーズが、さらに、さらに、と延長されるにつれ、輪の役を鬼平や木村忠吾、それにおまさなどが果たすようになった。その変化ぶりを検証するのも、このシリーズをより深く読む目のつけどころの一つでもある。

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