〔掻掘(かいぼり)〕のおけい
『鬼平犯科帳』文庫巻7に配されて、[掻掘のおけい]とタイトルにもなっている、存在感のある女賊。なんといっても、その名前がタイトルに置かれている女賊は、全24冊中、わずかに9人だからね。
もっとも[艶婦の毒]のお豊のときには女賊をタイトルに据える発想は池波さんにまだなかったし、[女賊]の〔猿塚(さるづか)〕のお千代では、それまでの「女賊(にょぞく)」を「女賊(おんなぞく)」にあらためる最初の篇だったから、[猿塚のお千代]とはつけがたかったのであろう。
(参照: お豊、おたかの項)
年齢・容姿:40をすぎている。よくみると美(い)い女でもないが、色気がある。
生国:不明。
〔生駒(いこま)〕の仙右衛門の庇護をうけているとあるから、「摂津」か「大和」にしてもよかったし、「川越城下の小間物屋の後家」といっているから「武蔵」ともおもったが、そのあたりはいい加減な女だから、「不明」のカテゴリーを新設して、その第1号に。
(参照: 〔生駒〕の仙右衛門の項)
探索の発端:〔大滝(〔おおたき)〕の五郎蔵が、かつて〔蓑火〕の喜之助のところにいたことのある〔砂井(すない)〕の鶴吉に声をかけられた。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
(参照: 〔砂井〕の鶴吉の項)
この1年、〔掻掘(かいぼり)〕のおけいにくわえこまれて精も根も吸いつくされているから、助けてほしい、と。
それでおけいを尾行した五郎蔵は、〔和尚(おしょう)〕の半平一味の〔黒灰(くろはい)〕の宗六の隠れ家を突きとめた。
(参照: 〔和尚〕の半平の項)
(参照: 〔黒灰〕の宗六の項)
結末:、〔掻掘〕のおけいがたらしこんだ日本橋・富沢町の紅・白粉問屋〔玉屋〕茂兵衛方へ押しいろうとした、〔和尚〕の半平一味11名のうち、2人は弓矢で射殺、あとは逮捕。畜生ばたらきが専門の半平とともにおけいも市中引きまわしの上、死罪。
つぶやき:おけいの魅力について、70歳をこえた〔舟形(ふなかた)〕の宗平爺つぁんが溜息まじりに、こう表現している。
「よく見ると別に美(い)い女でもねえのだが、なんともいえねえ色気があってね。ちょいとその、着物ごしにふれたことがあるが、ゆび先へぴりっときたよ。やわらけえのだ。もうまるで、骨がねえみたいだった。着物ごしなのに、生身の肌へふれたような貴がして、ぞっとしたよ」
(参照: 〔舟形〕の宗平の項)
若い〔砂井〕の鶴吉の告白。
「と、とても、四十をこえた女とはおもえません。そこは年相応に肥えてはいますが、なんともいえずにやわらかい肌身で、こっちの肌が吸いこまれそうなんで---」
池波さんの女性賛美もなかなかのもの。
それにしても、男の精と根を掻きだし掘りつくすような「通り名(呼び名)」には、恐れ入る。「掻く」の手へんはまあとうぜんとして、「掘る」も手へん。
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コメント
「掻堀」のおけいは、男性ばかりでなく、女性にとっても、ある種の憧れではないでしょうか。
池波さんの女性感なのか、世の男性諸氏の想いなのか、忠吾が云っている。
「まことにもって、凄い女で、抱かれてみたいと思いました。一度だけでも、」
私はこの男性の身勝手な言葉が大嫌いです。
でも、「掻堀おけい」はこの男心を逆手にとって
盗みに利用しまっくったのですね。
結末は女ながらに、市中引き回しの上、処刑されましたが、おけいなら、きっと、堂々と胸を張って、引き回され、潔く刑場の露と消えた事でしょう。
久しぶりに「スカッ」とした気分爽快な「女賊」の物語でした。
投稿: みやこのお豊 | 2005.07.22 17:39