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2005.07.21

〔壁川(かべかわ)〕の源内

『鬼平犯科帳』文庫巻21に収められている[討ち入り市兵衛]で、正統派〔蓮沼(はすぬま)〕の市兵衛(70をすぎている)の片腕で、お頭の意うけてを交渉にあたった〔松戸(まつど)〕の繁蔵(50がらみ)に死にいたるほどの深傷(ふかで)を負わせた、浪人あがりの畜生働きが専門の首領。
(参照: 〔蓮沼〕の市兵衛の項)

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年齢・容姿:年齢は記されていない。大きな躰。
生国:紀伊(きい)国日高郡(ひたかこうり)壁川崎(かべござき)村(現・和歌山県御坊市名田町野島)。
「壁川」なる地名は、『大日本地名辞書』にも、『旧高旧領』にも、『郵便番号簿』にも記載がない。わずかに平凡社『日本歴史大系 和歌山県』に「壁川崎遺跡」が載っていた。呼称も(かべござき)で(かべかわ)ではない。「紀伊水道に面した海岸段丘上にある」先土器時代の遺跡と。
「不明」のカテゴリーに分類すべきかともおもったが、上方から中国筋へかけてを盗めの縄張りにしているということだから、とりあえず、ここを仮の生国とした。

探索の発端:南本所・二ッ目の通りに面した弥勒寺門前茶店[笹や]のお熊婆さんが、裏の植半の庭で、深傷(ふかで)を負ってうめいている〔松戸(まつど)〕の繁蔵を見つけた。駆けつけた〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵が、〔蓮沼(はすぬま)〕の市兵衛の片腕の繁蔵と認めた。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
彦十の爺つぁんが繁蔵の文をとどけた先、神田鍋町東横町の鞘師・長三郎(40歳)のところへ〔蓮沼(はすぬま)〕の市兵衛がいて、しつこく助力を求めてき、拒否されるや、口上を告げた繁蔵を殺傷した〔壁川(かべかわ〕の源内一味への討ち入りをきめた。

結末:深川三好町の〔壁川〕一味の盗人宿へ討ち入りをかけたのは、〔蓮沼〕の市兵衛とその配下5名、それに助っ人として木村忠右衛門(じつは鬼平)。相手方の7名は、すべて殺傷か捕縛。こちら側も市兵衛ほか3名が死ぬ壮絶な戦いであった。

つぶやき:古武士をおもわせるほどにいさぎよい〔蓮沼〕の市兵衛。対する〔壁川〕の源内方は手汚い謀ごとを平気で用いる。大衆小説の常道の対比とはいえ、あまりに際立ちすぎている。

mix(ミク)友というべきか、マイミクというべきか、そこでのハンドル・ネーム〔しんちゃん〕さんは、いまは福岡県にお住まいだが御坊のお生まれである。で、「壁川」のことをわがことのようにおおもいになったらしく、地元で教師をなさっている賢兄に史料をご依頼になった。送られてきた「壁川橋」の記述---「祓戸(はらいど)と本村の堺の往還にある土橋なり、土人或は囁(ささやき)の橋ともいふ」(『紀伊続風土記』)、「祓戸の南、小川に架す。土人(さとびと)或はささやきの橋ともいふ」(『紀伊国名所図会』)。
池波さんは、どうしてこのことを知っていたのだろう。

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コメント

「梶ヶ谷」の三之助、「壁川」の源内と,続いて先史時代の遺跡を「通り名」にしている盗人が登場しております。

池波さんの著作の中でそのようなテーマの作品をまだ読んだことがないのですが、考古学にも、ご造詣が深かったのですね。

投稿: みやこのお豊 | 2005.07.21 22:00

お頭のためにすっとんで参りやした。
奇しくも、敵と同郷のものです。。。

壁川遺跡はちらっと聞いたことあります。
また、遺跡については、わかることあれば
アップします。

この辺は、海岸沿いの朴訥としたところで、
あのちくしょう野郎の出所とは、とても思えない場所です。
海岸沿いに走る国道を、ガキのころにゃぁ
チャリンコで、よく走ったもんです。

西瓜、三度豆などの露地栽培が盛んですね。
ハウス栽培も多かったと思います。

本日はこの辺で。。。

投稿: 〔蓮沼〕のしん兵衛 | 2005.08.02 08:32

>みやこのお豊さん

その点、調べていて、不思議にはおもっていますが、池波さんが座右に置いていた吉田東伍博士『大日本地名辞書』の記述がそうなっていますから。


>〔蓮沼〕のしん兵衛さん

いらっしゃいませ。
ぼくも、(45年ほど前の)大阪在住時代、御坊や白浜には何度が行ったことがあります。
しかし、当時は考古学にも、池波さんにも関心がなく、素通りでした。後悔しています。

なにか情報がありましたら、よろしくお願いします。

投稿: ちゅうすけ | 2005.08.02 11:47

どうやら
〔壁川〕の はこの辺で決まり、ですかね。

あっしとしては、複雑でやす。

〔蓮沼〕のお頭 と何らかの関わりを持っていたいのですが・・・
敵(かたき)と同郷となると、なんとも言えねぇでさぁ

投稿: 〔蓮沼〕のしん兵衛さん | 2005.08.16 20:40

ホンに、池波さんという方は

不思議な方 だと思います。

投稿: 〔蓮沼〕のしん兵衛 | 2005.08.19 00:17

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