〔釜抜(かまぬ)き〕の清兵衛
『鬼平犯科帳』文庫巻11に、[雨隠れの鶴吉]の題名としてあげられている盗人(29歳)と女房のお民(31歳)は、中国筋から上方へかけてをテリトリーとしている〔釜抜(かまぬ)き〕の清兵衛一味で、引き込みを得意としていた。
(参照: 〔雨隠れ〕の鶴吉の項)
(参照: 女賊お民の項)
〔雨隠(あまがく)れ〕とは雨宿りの意で、まさに「引き込み」をあらわしている。
〔釜抜き〕については、「闇夜に釜を抜く」という諺を耳にしたことはあるが、正確な意味は知らない。手元の小学館版『日本国語大辞典』には「大勢の女共は闇夜にへそをぬかれしごとく、うっとりとしていたりしが---」の例文をあげているのみ。これから類推するに、盗まれた側が気がつかないように風のように盗むという本格派の比喩か。
年齢・容姿:どちらも記述されていない。気前はいい。
生国:不明。
探索の発端:といっても、〔釜抜き〕の清兵衛一味のことではない。
一と仕事を終えて骨休めに江戸見物に戻ってきた鶴吉夫婦が、ひょんなことから生家の室町2丁目の茶問屋〔万屋〕へ宿泊すことになった。
そして、女房のお民が、〔万屋〕へ飯炊き男に化けて引き込みに入っている〔稲荷(とうが)〕の百蔵一味の〔貝月(かいづき)〕の音五郎を見つけた。
(参照: 〔稲荷〕の百蔵の項)
(参照: 〔貝月〕の音五郎の項)
鶴吉は昔なじみの井関録之助へ相談をもちかけ、録之助は高杉道場の同門だった鬼平へ。
こうして、〔稲荷〕の百蔵一味へ監視がついた。
結末:井関録之助の大芝居で、鶴吉夫婦は見逃され、3人は熱海の湯へ。湯からあがるお民の尻に見とれた録之助が、「おい、鶴坊。お前の女房のお尻は、ふっくらと大きくて、いいお尻だなあ」と天下泰平。池波さんの好みの尻でもある。
つぶやき:家出したティーンエイジの鶴吉が東海道で行きくれていたとき、〔釜抜き〕の清兵衛がひろって、一人前の盗人に仕込んだ---というエピソードが挿入され、「産みの親より育ての親」という諺が実証される。
この篇は、「雨隠れ」にはじまり、「釜抜き」、「育ての親」---さらにいうと「小糠三合」「遠い親戚より近い他人」と諺づくめ---世間知で組み立てられている。世間知は、池波小説の根幹でもある。
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