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2005.11.08

〔市場(いちば)〕の太兵衛

『鬼平犯科帳』文庫巻7に収められている[盗賊婚礼]で、江戸の盗賊の首領〔傘山(かさやま)〕の弥太郎へ、親同士の約束だからと、自分の情婦を花嫁として押しつけようとした名古屋の盗人〔鳴海(なるみ)〕の繁蔵の側近でも、忠義面をしているのが〔市場(いちば)の太兵衛である。
三三九度の盃ごとがまさにはじまろいとしたとき、あまりのあざとさにたえられなくなった〔長嶋(ながしま)〕の久五郎が「もう、やめて下せえ」と止めたのに、「なにをいうのだ」とくってかかったのが太兵衛だ。
(参照: 〔鳴海〕の繁蔵の項)
(参照: 〔長嶋〕の久五郎の項)

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年齢・容姿:どちらも記載がない。
生国:「市場」という地名は、それこそ、全国に無数にある。生国をぼやかすために〔落合〕〔追分〕〔稲荷〕などとともによく使われる。
それで、地縁ということから、「鳴海」にもっとも近い「市場」を探した。
三河(みかわ)国額田郡(ぬかたこうり)市場村(現・愛知県岡崎市市場町)。鳴海へ7里7丁(約29キロメートル)。

探索の発端:鬼平が〔瓢箪屋〕の裏手にさしかかったとき、屋内で起きている騒ぎに気づき、岸井左馬之助と2人で打ちこんでみると、〔傘山〕の弥太郎と〔鳴海〕の繁蔵の妹お糸(じつは繁蔵の情婦お梅)との婚礼中、繁蔵の配下の〔長嶋〕の久五郎が、偽の花嫁の正体を暴露したための混乱であった。

結末:〔鳴海〕の繁蔵の側近面よろしく、〔長嶋〕の久五郎に飛びかかった〔市場〕の太兵衛だったが、こぶしをひ腹にうけてひっくりかえった。
素直に縛についた〔傘山〕一味とは逆に、抵抗した〔鳴海〕一味だったが、全員捕縛。死罪だろう。

つぶやき:先記したように、〔落合〕〔追分〕〔市場〕〔稲荷〕などを「通り名(呼び名)」にしている盗賊の生国探しがもっとも骨だ。
こんどのケースでは地縁を最優先して東海道を距離ではかったが、それもできないばあいは、聖典をなんどもなんども読みこんで、些細な手がかりを見つけ、それをたよりに特定していく。膨大な量のコピーをとらなければならない。この篇の「市場」は愛知県、岐阜県にしぼったが、それでも地名辞書からA4で19枚のコピーをとった。

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