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2009.04.25

19歳の〔掻掘(かいぼり)〕のおけい

〔盗人酒屋〕へ入った途端、銕三郎(てつさぶろう 25歳)は、ふしぎな気分になった。
欲望が触発されたというか、股間があったかくなったのである。

奥の飯台で、こちらを背にしたおんなと向きあって話している〔(たずがね)〕の忠助(ちゅうすけ 50がらみ)が、銕三郎をみとめて、
「ああ、っつぁん。お引きあわせしときやしょう」

おんながこちらをふりむいた。
美人というほどではない。
下がり気味の目じりの流し目で、男ごころを誘う。
白粉をはたいていない首すじあたりの肌が、抜けるように白い---というより透きとおって骨まで見えようかという風情で、江戸のおんなには珍しい。

これまで抱いたことのあるおんなでは、三島宿のお芙佐(ふさ 25歳=当時)に近いといえようか。
あれは、銕三郎にとっては10年以上も前、14歳のときの初めての性体験で、しかも、1夜きりのことであったから、しかとは比べられない。

参照】2007年7月16日[仮(かりそめ)の母・お芙沙(ふさ

「おけいさん。こちらは、銕三郎とおっしゃる、旗本の3男坊で、厄介ぐらしの身の上。ただし、蔭にすごい女性(にょしょう)がついてるから、手だしは無用」

けいと呼ばれた20歳そこそこと見えるおんなは、齢に似合わず、色気の塊といえそうなほどだが、それもどことなく崩れた妖気じみたものを感じさせる。
男に、溺れてみたいとおもわせる色気である。
銕三郎の股間は平常に戻っていたが、独身のときなら、溺れるほうを選んだかもしれない。

そんな銕三郎を見通したように、
「おけいでございます。おけいのけいは、親は恵むの〔恵(けい)〕のつもりだったようですが、わなの〔罠(けい)〕だろうっておっしゃる男衆が多いんでございますよ。おほっ、ほほほ」
(しょってやがる。おもいしらせてやりたいと、男におもわせるところが、〔罠〕なんだな)

「罠とかにかかってみてえものだが、こええ情婦(いろ)に殺されてもつまらねえからな」
伝法に受け流しておき、目で忠助を板場へ誘った。

どん。おまさに心配させてはいけないよ。あの娘(こ)のいうとおり、10日ごとに店を閉めるんだな。遊びたいさかりのおまさにとっても、いい休養日になるしな」
「わかりやした。ところで、っつぁん。あのおけいの〔通り名(呼び名とも)〕は、〔掻掘かいぼり)〕といわれていやす。男の精をあますところなく掻いだすんだそうで---」
「掻いだされる男がだらしない」

「そりゃあ、そうにちげえねえが、なんでも、骨がねえみてえな躰だといわれていやす」
どんは、まだ試していない?」
「趣味じゃねえから---」

「ふふ。それはそうと、宮参り祝いのお返しにきたのだ」
「もう、そんなになりますか。久栄おっ師匠(しょ)さんは、お変わりなく?」
「おお。宮参りをすませたら、早々に〔罠〕をしかけてきている」
「う、ふふふ。ご馳走さまでやす」


参照】2009年4月25日~[19歳の〔掻掘(かいぼり)〕のおけい] () (


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コメント

きゃっ!掻掘のおけいさんまで、若き日の銕三郎にからむのでは、久栄さん、辰蔵を産んでも、うかうかしていられませんね。
お竜さんときれて、やれやれだったでしょうに。これでは『銕三郎親女帳』になりそう。

投稿: yuki | 2009.04.26 04:13

>yuki さん
初めまして。
若くして「悪」に染まった女というのを描いてみたかったのです。
当人はまったく「悪」とは意識していないのに、他人に「悪」を与えている人間---今後も、ときどき登場してもらうつもりです。
乞う声援(?)---は、おかしいかな。

投稿: ちゅうすけ | 2009.04.26 08:22

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