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2007.07.16

仮(かりそめ)の母・お芙沙(ふさ)

銕三郎(てつさぶろう 14歳 のちの平蔵宣以)が夜の街へ出ようとすると、本陣の主人・伝左衛門に呼びとめられた。
伝左衛門は、銕三郎を帳場の奥の部屋へみちびいた。

長谷川さま。今宵のところは、黙って伝左衛門におまかせください」
「なんと---?」
「お遊びにお出かけでございましょう? なりませぬ。悪い病気でも感染(うつ)され遊ばしたら、お父上に申しわけがたちませぬ」
「----」
「私めが、ご案内いたします」
50すぎの伝左衛門は、太作とどっこいどっこいの年齢だが、本陣の主人らしく貫禄があり、衣服もいいものを着ている。

案内されたのは、〔樋口〕からさほど遠くはない、三島神社の裏の路地奥のしもたやであった。

Photo
(左下の赤○=旧東海道ぞいの本陣〔樋口屋〕
右上の赤○=三島大社裏、銕三郎の記憶のお芙沙の家)

出てきた小女に銕三郎を渡すと、伝左衛門はそのまま引き返した。

瀟洒な、かぐわしい香りのする部屋に案内された。
香りには線香の匂いもかすかに混じっているような気がする。

女が入ってきた。
眉を落としているから、ちょっと老けてみえるが、肌の張りから、25,6の年増と銕三郎は見た。

芙沙(ふさ)と申します」
細めた目でわらうと、左の頬に浅いえくぼができた。
銕三郎です。は、金偏に夷(えびす)と書く、です」
銕三(てっさ)さまと呼ばせてくださいませ。そのほうが、母親らしい気持ちになれます」
「----母御(ははご)?」
「はい。仮(かりそめ)の母」

_360
(歌麿『歌まくら』[若後家の睦み」部分 「芸術新潮]2003年1月号)

夕餉はすましたというと、小女が点茶を捧げてきた。
芙沙は小女に、もう帰ってよい、と告げた。
そして、風呂場へ案内し、灯火を細くしてから、自分も衣服を脱いで入ってきて、銕三郎の背中をながしながら、話した。
亡夫は、樋口伝左衛門とは幼なじみだったが、1ヶ月前に病死したこと。
17歳のときに後妻に入ったこと。
男の子を生んだが、育たなかったこと。
「だから、銕三さまが、赤ん坊のときに逝った子のように思えるのです。いえ、銕三さまのように育っていてくれたらと---」

突然、芙沙は、脇の下から腕をまわし、後ろから抱きしめてきた。重くはずみのある乳房が背中を押す。
銕三郎の躰の芯から熱くなった。
女の唇が首筋をはう。
息をおくれ毛に感じる。
秘画がよみがえり、股間が膨張しきる。

「さ、お湯へおつかりくださいませ」
芙沙の声に、銕三郎はすくわれたように湯に入った。

湯を出ると、芙沙は裸躰のまま、新しい浴衣で銕三郎をつつみ、さっきの隣部屋へみちびいた。

蚊帳が吊ってあった。
「もう、お婆(ばば)ですから、明るすぎると、銕三さまに嫌われますゆえ」
そういって、風呂場へ去った。

_360
(歌麿『美人入浴図』)

蚊帳の中で横たわりながら、銕三郎は、太作の周到な手くばりを感じていた。
太作が、伝左衛門に頼みこんだに違いない。

芙沙が入ってきて、左に寝た。
湯上りのはずなのに肌はひんやり、しっとりとしている。
銕三郎が動けないでいると、左の薬指をつかんで自分の茂みの中へ誘い、
「そのお指を、ゆっくり、やさしく、軽やかに、ゆっくり、動かしてくださいませ」
銕三郎は、いわれたとおりにする。
掌に茂みがこころよくあたっている。
その左手をまたいだ芙沙の右手に、挙立(きょりつ)しているものを、そっと握られたとき、銕三郎の全身がぴくっとふるえた。
芙沙は小さく笑って、
「そのままま、おつづけになっていて---お初めてとうかがいました」
「----」
「わたくし、後妻だったものですから、初めての殿方、わたくしも初めて。こうして安らかに睦みあっていますと、母子の添い寝のようです」

もちろん、添い寝でおさまる2人ではなかった。
銕三さまは、いつのまにやら、「---てつ---ああ、てつ」に変わっていた。
そのときも、片頬に浅いえくぼができていた。

着物を着た銕三郎が、
「ご教授、かじけなかった。ついては束脩(そくしゅう)ですが---」
銕三。母親に小遣いをわたそうとする子がどこの世界にいますか。息子というものは、いくつになっても母に甘えて、気苦労をかけてこそ、母孝行なのですよ」

芙沙は玄関でぶら提灯を渡してくれながら訊いた。
「お戻りは、いつでございますか?」
「行きが2宿、田中城下に2泊---いや、1泊になるやも。帰路に2泊」
5日目でございますね。こんども、母孝行をしてくださいますか」
「お母上。よろしゅうに」

_60_1

提灯に〔樋口〕の屋標「二引き両」が描かれていたが、銕三郎は、もう気にしなかった。


参照】2007年7月24日[仮(かりそめ)の母・お芙沙(ふさ)] (

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079銕三郎・平蔵とおんなたち」カテゴリの記事

コメント

えむ さんのお勧めにしたがって、『男の秘図』(新潮文庫)をあたってみたら、徳山権十郎(のちの五兵衛秀栄 ひでいえ)が、乳母の千に男にされたのは、13歳でした。
そこで、銕三郎を14歳で筆おろしをさせました。

投稿: ちゅうすけ | 2007.07.16 10:21

いや。ポルノにならないように、しかも、新味のある濡れ場ってむずかしい。
とくに、どんな人が読んでいるかわからないウェブだし。
女性の人が読んでもいやらしくないようにと---苦心しのかぎり。

投稿: ちゅうすけ | 2007.07.16 10:50

この2日ほど、日記にも書いたけど、14歳の銕三郎 (のちの鬼平こと平蔵宣以)に初体験をさせるのに添える、時代は違うけれど、歌麿あたりの秘図をさがした。といっても、わが家にはそのテのものはほとんどない(艶消の断言だが)。
で、S社のMさんが4年ほど前に送ってくださったいた『芸術○潮』の浮世絵エロチカ特集版を思い出してめくってみるけれど、若後家というのがなかなか無い。眉が描かれていると、後家にならない。

この『歌撰恋之部 物思恋』の女性は、眉を落としているから既婚には違いないが、口を開けてないから白歯かどうか不明。

それにしても、何歳くらいだろう? 25,6歳の若年増を捜しているのだが。

秘図のコレクターの友人も知らないし(いわないからね)。

投稿: ちゅうすけ | 2007.07.24 17:30

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