筆頭与力・佐嶋忠介(3)
「いや、御厩河岸の舟着きの〔三文茶房〕の裏手、〔豆岩〕という呑み屋の亭主の岩五郎(いわごろう 30代前半)がことよ」
平蔵(へいぞう 42歳)はつとめてさりげなく話しているのだが、館(たち) 朔蔵(さくぞう 32歳)は呆気(あっけ)にとられた表情で、佐嶋忠介(ちゅうすけ 50歳)は細おもてを硬くして、つづく言葉を待つ。
館 朔蔵は平蔵の配下で、先手・弓の2番手の筆頭与力、佐嶋忠介も同じ肩書きながら、こちらは弓の1番手であった。
長谷川家の家士の松造(よしぞう 36歳)だけは、にやにや顔で料理をつついていた。
平蔵は目で奈々(なな 20歳)に座をはずすようにうながし、姿が消えてから、あそこの茶店と岩五郎・お勝(かつ 39歳)の商い店を火盗改メが使うように幕府へかけあったのは亡父・宣雄(のぶお 享年55歳)だと打ち明けた。
肩の力を抜いた佐嶋与力が、
「〔三文茶房〕のほうもそうだったとは知りませなんだ」
【参照】2009年6月20日~[〔銀波楼〕の今助] (1) (2) (3) (4) (5)
2009年6月21日~[〔神崎(かんざき)〕の伊之松] (1) (2) (3) (4)
2009年6月25日~[〔般若(はんにゃ)〕の捨吉] (1) (2)
「その〔豆岩〕のすぐ前の〔三文茶房〕のおんな主人のお粂(くめ 46歳)の亭主どのが、ここで鰹(かつお)の刺身をつまんでいる烏山松造でね……」
「これはまったく、異なご縁で……」
「だから、岩五郎のことは、筒抜け」
「恐れいりました」
佐嶋筆頭与力が鬢(びん)をかき、館 与力は初めてお頭(かしら)の別の顔を見たように目を見はった。
「せっかくだから、佐嶋うじから密偵のあつかい方をご伝授いただけるのを楽しみにしていたのだが……」
佐嶋が座りなおし、
「長谷川さまに手前ごときが申しあげることは今さらございませんが、あの者たちはかつての仲間からイヌとさげすまれております。そうではない、世のため人のために尽くしているのだと、自信を支えてやることが第一だとおもいます」
「自信を支えてやること――館 筆頭。しかと腹にいれて、配下の者にいいきかせるように」
「はっ」
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