佐嶋忠介の真の功績
リストは、38年前の1967年(昭和42年)、池波さんがその年に発表した、長篇と短篇とその媒体である。
当時、中堅作家の地歩確かなものにしていた池波さんは、この年、大衆小説の最高の舞台である『オール讀物』から4篇も依頼されるほど、力量を認められていた。
新年号に載った[正月四日の客]は、忍者もの、仇討ちものから白浪ものへ転じようとしている池波さんの心がまえを示していたが、編集者たちは、それが『鬼平犯科帳』の足ならしとは、まだ気づいていなかったようである。
12月号のための[浅草・御厩河岸]を受け取りにいったのは、『オール讀物』に配属されてまだ2年目の花田紀凱さんだった。
原稿を読み終えた花田さんに、池波さんがいった。
「そこへ出した長谷川平蔵は、面白い男でねえ。火付盗賊改方の長官で、人足寄場なんかもつくったんだよ」
これは、その3年前の『週刊新潮』の[江戸怪盗記]、さらには2年前の『別冊小説新潮』の[白浪看板]で長谷川平蔵をちらっと登場させたのに、反響がなかったために、じれていた池波さんが、ふと、好青年の花田さんにコナをかけたと見る。
社へ戻った花田さんが杉村友一編集長へ報告すると、「その、長谷川平蔵で連載を頼もう」となり、いろいろあって、なんと、翌月の新年号から『鬼平犯科帳』シリーズが始まった。
[浅草・御厩河岸]の主人公は密偵・豆岩だし、長谷川平蔵はほんの申しわけていどに顔をだすだけ。火盗改メとしての主役は佐嶋忠介である。
杉村ベテラン編集長は、[浅草・御厩河岸]での佐嶋忠介の描かれ方に着目、即座に連載を決定したのではあるまいか。
とすると、佐嶋忠介こそ、『鬼平犯科帳』誕生の真の功労者といってよかろう。
つぶ゜やき:
シリーズの3年前の[江戸怪盗記]は、その後、[妖盗・葵小僧]にリメイクされたが、この[江戸怪盗記]では、佐島という同心が葵小僧一味の逮捕のときに殉職しているのは、なぜか、あまり指摘されていない。
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コメント
佐嶋忠介が殉職しているなんて、そんな話があったのですか
是非読み比べてみたいですが、今からでも叶うのでしょうか・
投稿: みやこのお豊 | 2006.04.12 23:34
『にっぽん怪盗伝』(角川文庫)に収録されていて、最近、増刷されましたね。
投稿: ちゅうすけ | 2006.04.13 09:55