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2005.01.24

下総(しもうさ)無宿の助次郎

『鬼平犯科帳』文庫巻1、〔鬼平犯科帳〕のシリーズ・タイトルがついての第1話として『オール讀物』(1968年新年号)に載った[ 唖の十蔵]で、身重の女房に絞殺された盗人。
〔野槌〕の弥平一味だが、おもての商売はかつぎ小間物屋。

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年齢・容姿:30がらみ。容姿の描写はない。
生国:下総(しもうさ)無宿とのみ。

探索の発端:火盗改メの任についている先手・弓第1組(組頭・堀帯刀秀隆)の同心・小野十蔵が、密告(さし)のあった新鳥越4丁目、光照寺の横手の小間物屋を見張っていた。

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現在の光照院 四囲は住宅がぎっしり

と、女のすすり泣きがする。女房おふじが、彼女を捨てて、別の女とどこかへ行ってしまうといい泥酔して眠りこけた亭主・助次郎を絞殺していたのである。
殺されるまえに、身重のおふじを蹴ってつき放した助次郎が「梅吉兄いがくるまで---」といったことから、〔野槌〕の弥平一味の逮捕につながっていった。

結末:助次郎は絞殺されたが、梅吉といっしょに現れた粂が捕まり、鬼平の拷問に耐えかねて吐いたので、王子稲荷の裏参道で〔野槌〕の弥平がやっていた料理屋〔乳熊屋〕へ鬼平以下の火盗改メが打ちこみ、7名を逮捕。一同、はりつけ刑。

つぶやき:当サイトの初期に紹介した大盗〔海老坂〕の与兵衛のところに書いたように、[浅草・御厩河岸]は、『オール讀物』1967年12月号に単発短篇として発表された。

長谷川平蔵がチラッと顔を見せる白浪ものの短篇を2編、それまでに他誌に寄せたにもかかわらず、どの編集部からも長谷川平蔵ものの依頼がこなかったので、しびれをきらしていた池波さんは、、[浅草・御厩河岸]の原稿を渡すとき、駆けだしの編集者にコナをかけた。

帰社した編者者から池波さんの言葉を報告された杉村友一編集長は、即座に、長谷川平蔵ものの連載を決意し、その旨を池波さんに伝えた。

その決定を心待ちしていた池波さんは、「すぐに書くので、新年号から---ということに」と告げて、あわただしく執筆したのが、この[唖の十蔵]だった。
その分、調査が行きとどかなかった点がいくつか見られる。

小野十蔵や佐嶋忠介が所属していた堀帯刀(先手弓の第1組の組頭)の家禄は、500石ではなく、1,500石。

小野十蔵の住いのある先手弓第1組の組屋敷は牛込・矢来下ではなく、酒井若狭守の牛込の矢来をめぐらせた上屋敷の西。

小野十蔵は父親ゆずりの琴古流の尺八をよくしたというが、虚無僧が吹くのは明暗流で、まったく別の奏法。

ついでに----。粂(のちの〔小房〕の粂八。当サイトの彼の項を参照されたし)に鬼平が使った、五寸釘を足の甲に打ちこんで熱蝋をたらす拷問は、子母沢寛氏の新選組三部作中で、古高俊太郎の拷問に採用したものである。

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コメント

〔小房〕の粂八さんへの、五寸釘拷問は、先例があったのですね。

そういえば、池波先生が何かのエッセイで、新撰組の小説を書くにあたり、子母沢寛先生を訪ね、ご著作を参考にさせていただきたい---と、お願いなさり、ご快諾をえられたと、書いていらっしゃいましたね。

投稿: 加代子 | 2005.01.24 09:06

子母澤 寛先生が、古道具店〔桝屋〕喜右衛門こと古高俊太郎の拷問ぶりをお書きになっているのは、『新選組始末記』(中公文庫)p121です。

古高をしばったまま逆さに梁へ釣るし上させ、足の甲から裏へ五寸釘をずぶりと突き通し、それへ百目蝋燭を立てて火をつけ、とろりとろりと蝋を肌へ流すようにした。
これには、流石の古高も堪えかねたと見え、ものの一時間も悶え苦しんだ上に、素直に尋問に答えるようになった。

とあります。

投稿: 文くばり丈太 | 2005.01.24 09:25

おー、こわ。

愛しい粂八さんの足の甲に五寸釘?
冗談では、ありませんよ。

新選組の真似なんかして、鬼平さんも人が悪いったら、ありゃしない!
きらい!

投稿: 裏店のおこん | 2005.01.24 12:09

あの五寸釘&熱蝋の拷問は、優しさの反面、悪には断固たる処置をとる、鬼平の剛毅さの例に引かれますが、史実の長谷川平蔵は「おれは拷問なんかしない。拷問しなくてもすらすらと白状するよ」と広言しています。

まあ、これも、盗人社会にひろまることを予見したPR作戦の気配が濃いのですが。
拷問されないのだから、捕まるなら長谷川組がいい、と早のみこみの盗人たちが自首してきたといいますからね。

長谷川平蔵は「口先一つで、捜査コストが低減できた」とにんまりだったとか。

おこんさん。そういうわけですから、粂八つぁんは、五寸釘を打たれなかったとおもいますよ。

投稿: ちゅうすけ | 2005.01.24 15:51

[唖の十蔵]のヒロインおふじは、池波先生がお創りになった中でも、特筆していい、みごとな女性ではないでしょうか。

自分と引きくらべて、なんて可憐な女の人だろうとおもいます。
おふじに見つめられた男性は、なんとかしてやらねば---とおもうというのでしょう?

自分にも、おふじさんのような可憐さがあったら---と、むしろ、うらやましい。
でも、そんな人だったからけっきょく、絞殺されて仙台堀に投げ込まれるほど、薄幸だったのでしょうか。
読んでいて、涙がとまりませんでした。

投稿: 目黒の朋子 | 2005.01.24 19:29

[唖の十蔵]は読んでてつらい物語でした。
「おふじ」と「十蔵」の束の間の安らぎが逆に暗い将来を暗示しているし、梅吉は取り逃がすし、つかっま粂八は凄い拷問にいためられるし、最初だけに池波さんは少しサービス過剰かなと思いました。
最後の平蔵の台詞、
「おれも妾腹の上に、母親の顔も知らぬ男ゆえなあ・・・」
お順の幸せが暗示されてホットした次第です。

投稿: 靖酔 | 2005.01.24 20:25

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