〔籠滝(かごたき)〕の太次郎
『鬼平犯科帳』文庫巻20に収められている[高萩の捨五郎]で、タイトルにもなっている一人ばたらきの〔高萩(たかはぎ)〕の捨五郎(54,5歳)に助(す)けばたらきを頼んだが、兇悪なお盗メのゆえに断られ、腹いせを画策する首領が、〔籠滝(かごたき)〕の太次郎である。
(参照: 〔高萩〕の捨五郎の項)
当の捨五郎は、向島・請地の秋葉大権現の近くで、武士に粗相をした子どもとその父親を助けようとして足を斬られて、動けない。
年齢・容姿:彦十の見立てだと40歳前後。引きしまった躰つき。苦味のきいた顔つきだが、表情というものがなく、気味の悪さを相手にあたえる。
生国:北陸道から越中・越後へかけてを縄張りにしているというが、『旧高旧領』には「籠滝」という地名は、そのあたりはもとより全国に存在しない。
それで、池波さんの取材先からの推定で、冨山県東砺波郡平村籠渡が「通り名(呼び名)」づくりのヒントかなと類推した。
もちろん、新潟県北蒲原郡安田町籠田も捨てがたいが。
探索の発端:傷で動けない捨五郎の手紙を、代わって彦十が〔籠滝〕の太次郎が宿泊している武州飯塚村の夕顔観音堂に近い家へとどけたことから、火盗改メが〔籠滝〕一味を監視することになった。
夕顔観音堂(『江戸名所図会』より 塗り絵師:西尾 忠久)
結末:手紙を届けて帰る彦十を尾行し、捨五郎が伏せている農家をさぐりあて、襲ってきた〔籠滝〕一味は、待ち構えていた火盗改メにたちまち捕らえられた。
また、佐嶋与力が指揮する捕方が、夕顔観音堂の近くの隠れ家を襲い、全員捕縛。
つぶやき:〔高萩〕の捨五郎のいさぎよさに対して、〔籠滝〕の太次郎の執念深さと非道ぶりは、対比が芸術の基本の一つとはいい条、これほどあざやかに示されると、うならざるをえない。池波さんの小説作法の真髄の一つがこの篇。
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