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2006.02.01

〔山市(やまいち)〕の市兵衛

『鬼平犯科帳』文庫巻12の冒頭に収まっている[いろおとこ]で、同心・寺田又太郎・金三郎の殺傷を仕掛けたのは〔鹿熊(かぐま)〕の音蔵一味だが、それには女賊おせつの伯父〔山市(やまいち)〕の市兵衛が1枚かんでいた。
(参照: 〔鹿熊〕の音蔵の項)
(参照: 女賊おせつの項)
6年前に盗みの世界から足を洗った市兵衛は、四ッ目橋の北詰・深川北松代町で小さな居酒屋〔山市〕を営んでいる。店名は山形に名前の市兵衛の「市」を配した屋標からきたものであろう。

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年齢・容姿:60がらみ。白髪頭。
生国:越中(えっちゅう)国新川郡(にいかわこおり)の山あいの村(現・冨山県下か中か上新川郡のどこか)。
市兵衛も姪おせつも、下新川郡生まれの〔舟見(ふなみ)〕の長兵衛一味にいたことがある。その地縁で類推。
(参照: 〔舟見〕の長兵衛の項)

探索の発端:兄・又太郎を謀殺した〔鹿熊〕一味を探索するために火盗改メの同心となった寺田金三郎が、居酒屋〔山市〕へ消えたのを不審に思った〔相模〕の彦十が見張っていると、男が一人、出てきた。
尾行すると、緑町4丁目の鰻屋で浪人と何かを打ち合わせたのち、またも〔山市〕へ引き返す。
たまたま通りかかった鬼平とともに〔山市〕を見張っていると、女の悲鳴が---。
飛びこんでみると、おせつが殺されており、市兵衛は逃げた。
そこから、市兵衛がふたたびあらわれるのを〔大滝〕の五郎蔵と彦十が張りこんで待ちかまえた。

結末:おせつを殺したのは、〔鹿熊〕一味のものと、市兵衛が白状におよんだので、一味の盗人宿の東海道も波品川宿2丁目の質商に打ち込んで、音蔵ほか8名が逮捕された。かずかずの畜生ばたらきからいって磔刑であろう。

つぶやき:伯父・市兵衛から見た姪おせつ評「あのおせつという女は、私の弟の子に生まれましたが、どうにも、女賊になりきれねえところがございました。気質(きだて)がやさしい上、顔もおぼえねえうちに母親を亡くした所為(せい)かも知れませぬ。どことなく、たよりげな、ものさびしいところがございまして、そういうところに、男はひきつけられてしまうようなのでございます---」
こういう悲運の女性を池波さんはよく書く。当シリーズ第1話[唖の十蔵]の小間物屋の女房おふじもそうだった。

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