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2006.02.02

女賊(おんなぞく)お浜

『鬼平犯科帳』文庫巻17は、長篇第2作[鬼火]である。この篇で謎めいた男、〔権兵衛酒屋〕の亭主の正体が、旗本・永井家(600石)の長男・弥一郎と知れるのは、物語が200ページほども進展してからである。
(参照: 元旗本・長井弥一郎の項)
さらに意外なのは、〔権兵衛酒屋〕の亭主の古女房とおもわれていたお浜の正体があかされるのが、巻末4ページ前であること。
実家を飛びだして〔名越(なごし)〕の松右衛門一味の笠屋の友次郎と一緒になったために女賊として生きることになった。
(参照: 〔名越〕の松右衛門の項)

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年齢・容姿:58歳。白いものが混じった髪を無造作に後で束ねている。両眼がくろぐろと大きく、浅ぐろい顔は肌理(きめ)がこまかい。
生国:武蔵(むさし)国江戸の町屋(現・東京都中央区の商家のどれか)。
7000石の大身旗本・渡辺家へ行儀見習いをかねて奥向きの女中として奉公にあがっていたとき、当主の嫡男・16歳の直義の子を産みおとしてのち、実家へ帰された。

探索の発端:〔権兵衛酒屋〕で呑んだあと、様子をうかがっている妖しい者たちに気づいた鬼平が、襲撃人たちと斬りむすんでいるうちに、亭主が遁走。斬られたお浜が、療養させていた火盗改メの役宅で見張りの同心の刀を奪って自害したことから、鬼平の疑惑が始まった。

結末:当人は自害しているので、元は女賊だが、裁決はない。

つぶやき:大身旗本の嫡男の不始末、産んだ子を取り上げられて絶望した若い女の転落、わが子を配下へ押しつけ、長男を廃嫡同様にして家督をつがせる身勝手---と、筋書きと道具立てはよくある大衆小説のものだが、鬼平の直感に筋道がついているので、読み手は、手もなく池波ワールドへ落ち着く。

それにしても気になるのは、ほとんど描写されない〔名越(なごし)〕の松右衛門という首領の人生哲学と、鬼平が、
「おれはなあ、お浜のような女に、滅法弱いのだ」
という告白である。


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