密偵・岩吉
『鬼平犯科帳』文庫巻13のタイトルになっている[夜針の音松]で、〔夜針(よばり)〕の音松が青山の百人町の通りを坊主姿で歩いているのを見た者がいる、といの情報を、同心・松永弥四郎へ告げたのは、松永同心が使っている密偵・岩吉であった。
(参照: 〔夜針〕の音松の項)
音松は、押し入った先で、金を奪って逃げるさいに、「あの世の土産に聞いておけ。おれはな、夜針の音松という盗っ人だ」といいおわるや、猿ぐつわをかませている店の者を脇差で突き殺すという兇悪な賊である。
年齢・容姿:どちらも記述されていない。
生国:これの記述もない。江戸近辺と察するが、不明。ただ、女房と子がいて、渋谷の広尾の大祥(廃寺)に近い渋谷川のほとりで、女房が茶店を出している。本人は遊び人で博打場などへも出入りしている。
:密偵になった経緯これも書かれていないが、何度も流れづとめをやつたとあるから、そのいずれかのときに捕縛されるか密告したかして、松永同心の手の者となったのであろう。
まあ、密偵といっても、〔小房〕の粂八とか〔大滝〕の五郎蔵のような、鬼平直属ではなく、自身もほとんど〔悪の世界〕にひたっていて、そこで小耳にはさんだを持ってくるので、鬼平は松永に「大事に飼っておけ」といっている。
(参照: 〔小房〕の粂八の項)
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
つぶやき:史実の長谷川平蔵が駆使していた密偵は、多くが岩吉のような〔悪の世界〕に片足を置いている者たちであったろう。
いわゆる付人(つけびと)と呼ばれた男たちで、もっぱら牢内にいて、入牢者たちのあいだで交わされる会話の中から犯罪者の動向を類推、報告した。
長谷川平蔵の後任として火盗改メに任じられた森山源五郎隆盛がエッセイ『蛋(あま)の焚藻(たくも)』で平蔵の逮捕実績を非難したのも、この付人使用によって実をあげたことであった。
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