〔岩屋(いわや)〕の大六
『鬼平犯科帳』文庫巻9の巻頭におかれている[雨引の文五郎]は、盗人の美学を体得している〔雨引(あまびき)〕の文五郎の物語である。
(参照: 〔雨引〕の文五郎の項)
属していた巨頭〔西尾(にしお)〕の長兵衛が逝き、残された一味25名の者たちは、とうぜん、文五郎が跡目をついでくれるとおもっていたのに、「跡目をつぐつもりはねえ。なぜといいねえ、おれは雨引の文五郎で西尾の長兵衛お頭ではねえからだ」といって、さっさと〔単独(ひとり)ばたらき〕の盗賊になってしまったものである。
このいきさつを〔舟形(ふながた)〕の宗平に告げたのが、〔西尾〕の一味の解散後、〔初鹿野(はじかの)〕の音松の配下となった〔岩屋(いわや)〕の大六であった。
(参照: 〔舟形〕の宗平の項 )
(参照: 〔初鹿野〕の音松の項 )
年齢・容姿:どちらも記述されていない。
生国:越中(えっちゅう)国砺波郡(となみこうり)井波村字岩屋(現・冨山県東砺波郡井波町岩屋)。
〔西尾〕の長兵衛のテリトリーは、甲信2州から美濃へかけてである。とすると、美濃国郡上郡岩屋村をまっさきにあげるべきであろう。しかし、この盗人は、捕縛された前歴がない。しかも、〔西尾〕の長兵衛も〔初鹿野〕の音松も本格派である。
ということで、池波さんは、あえて、池波家の先祖が宮大工をしていた、井波の出身としたのであろう。ここで、大六の名(だいろく)から(ろ)を引くと(だいく)---ほら、「だいく 大工」なんてことまでバラすと、池波さんは天上でくしゃみするかも。
探索の発端、結末:上のようなわけだから、どちらも記述されていない。
つぶやき:「岩屋」は、越前国大野郡、陸奥国二十郡と北郡、若狭国三方郡、大和国山辺郡、摂津国兎原郡と川辺郡にもあった。
しかし、なにもいわないで、井波町にゆずろうではないか。池波さん、安らかにお休みください。
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コメント
ちゅうすけどの
大六---だいろく---(ろ抜き)---だいく---大工
って、これ、手品を見せられているみていです。
言葉遊びのお好きな池波先生なら、たしかに、おやりになりそうなことですね。
しかしそれを実演してみせた、ちゅうすけさん、お見事!
投稿: 文くばり丈太 | 2005.08.16 10:47
>文くばり丈太さん
大胆すぎる仮説をおほめいただき、面はゆいです。
池波さんが、池波家の先祖が井波から江戸へ出てきた宮大工であることを知ったのはいつか、それは、[雨引の文五郎]が創作された1972年(昭和47年)初夏よりも前であることを証明名しなければなりません。
あるいは1972年以前に、井波を訪れていることを。
ご本人に聞くわけにはいかないから、豊子夫人にいまのうちにお聞きしておかないと。
投稿: ちゅうすけ | 2005.08.16 13:59