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2005.01.08

〔荒金(あらがね)〕の仙右衛門

『鬼平犯科帳』文庫巻2に収録の[密(いぬ)偵]で、密偵をやっている弥一に売られた首領。
追捕された一味11名。

202

年齢・容姿:不明。記述されていない。
生国:因幡国小田村字荒金(現・鳥取県岩美郡岩美町荒金)

探索の発端:鬼平の前任者・堀帯刀秀隆の時代のことなので不明。、どういう経緯でか捕らえられた、〔青坊主〕の弥一がきびしい拷問に耐えきれず、麻布広尾にあった一味の盗人宿を白状したために、〔荒金〕の仙右衛門はじめ一味の11名が捕まった。
うち、〔縄ぬけ〕の異名をもつ庄五郎が縄をほどいて逃走し、裏切り者の弥一の命を狙う。

結末:〔荒金〕一味は、縄ぬけした庄五郎を除いて、全員打ち首。4年後、密偵・弥一は庄五郎に殺された。

つぶやき:池波さんが座右から-放さなかった吉田東伍博士『大日本地名辞書』(冨山房 明治後半に刊行)には、「荒金」という地名は因幡国岩美郡の一つしかない。それで岩美町出身とした。

新潟県南魚沼郡大和町荒金は、未調査。

「荒金」とは、銅の古語(阿良加祢)。

岩美町役場 総務課長・向山さんからのメールに、「42代文武天皇2年3月に銅鉱を朝廷へ献上した経緯があり(略)、その後、武蔵野国も銅を献じて年号が和銅と改まったが、因幡(鳥取県)が献じたのはその7年前である。
荒金鉱山は、江戸時代にはあまり活発ではなかったようで、本格的な採掘は明治22年(1889)から。
経営母体もいろいろ移ったが、昭和18年(1943)の直下型地震による被害で採掘を中止したあとは、自然原水による沈殿銅採収になった。
現在は閉山。町は坑廃水処理に追われている」

1943年の鳥取地震のとき、ぼくは中学1年だったが、家も蔵も倒壊、すとんと垂直に落ちた蔵の屋根の庇の下でその夜、雨をしのいだ。

〔荒金〕の仙右衛門は本格派の大盗〔夜兎〕の角右衛門と親交があったというから、彼もまた「犯さず、殺さず、貧しきからは盗まず」の掟を守った本格派だったのだろう。古里・鳥取から一味を率いたお頭がでたことを誇りにおもう。

[密(いぬ)偵]での掘帯刀に対する池波さんの評価は、「なかなかの腕きき」ということだったが、連載が深まるにしたがって、評価は下がっていった。
堀帯刀はそれほどの切れ者ではなかったという史実が、だんだんに判明してきたのであろう。
堀帯刀の名誉のために付言しておくと、ご当人はともかくとして、ワイロをむさぼった用人のせいで世評を落としていた気配がつよい。

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コメント

「荒金」が銅のことだなんて、初めて知りました。

そういえば、江戸時代、日本の銀がどんどん海外へ流出した、と習ったことがあります。
銅は、どう? だったのでしょう(シャレではありません)。

いわゆる一文銭は明の通貨でしたっけ? 銅貨でしたよね。その後にできた「寛永通宝」も銅合金。商業の発展とともに、銅の需要は強くなっていたでしょうに、岩美銅山の銅が放っておかれたのが不思議です。

投稿: 加代子 | 2005.01.08 11:06

>加代子さん

銀の流出を憂えたのは、新井白石(明暦3年1657-享保10年1725)『折り焚く柴の記』ですから、将軍綱吉のころです。

そのころ、ほとんど底をついている状態だったと記しています。

原因は、絹の着物(呉服)、薬、鹿皮の輸入代金だったといわれています。

それで、銀山では掘り出しに大号令がかかったとか。

投稿: ちゅうすけ | 2005.01.08 17:15

『鬼平犯科帳』も後半になるにつれて堀帯刀の評価が落ちていくのは、池波先生が『よしの冊子』をお読みになったからでは、ないでしょうか。

西尾先生のホームページ[『鬼平犯科帳』の彩色『江戸名所図会』]の[現代語訳 よしの冊子]は、解説つきでとてもわかりやすくなっています。

鬼平と同時代に書かれた貴重な文献ですから、鬼平ファン必読の資料ですね。

投稿: 文くばりの丈太 | 2005.01.08 17:45

>文くばり丈太さん

[現代語訳 よしの冊子]をお読みいただき、ありがとうございます。

池波さんも[よしの冊子]で堀帯刀の評価を変えた---とのご推察は、ちょっとムリがあるかもしれません。

『よしの冊子』が中央公論社から『随筆百花苑』の第8,9巻として刊行されたのは、昭和55年(1980)11月20日と12月20日で、それは池波さんが、文庫巻21収録の篇を執筆していたころです。

その前に池波さんはなにかの史料を得て、堀帯刀の評価をお変えになったと推察します。

投稿: ちゅうすけ | 2005.01.08 19:09

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