〔峰山(みねやま)〕の初蔵
『鬼平犯科帳』文庫巻23に収録されている長篇[炎の色]で、しっかり者の密偵おまさにしては珍しく、ふらふらと湯島天神の境内に踏み込こんだところで、50男から声をかけられた。盗賊の首領〔峰山(みねやま)〕の初蔵であった。
(参照: 女密偵おまさの項)
おまさは、流れづとめをしていたころに〔峰山〕一味のために、小田原と越後で引き込みを務めたことがあった。
年齢・容姿:50男。血色がよい。
生国:丹後(たんご)国中郡(なかごうり)峰山町(みねやままち)(現・京都府中郡峰山町)
『鬼平犯科帳』とのつながりでいうと、峰山藩(11,000余石)の藩主で若年寄の京極備前守高久は、鬼平の後ろ盾ということになっている。
ほかに、奈良県山辺郡山添村峰山と、香川県高松市峰山もあるが、両方とも『大日本地名辞書』(冨山房)にも『旧高旧領』にも載っていないから、丹後国のここを採らざるをえなかった。
探索の発端:先記のように、湯島天神の境内で、〔峰山(みねやま)〕の初蔵のほうかに声をかけてき、〔荒神(こうじん)〕の2代目を継いだ女賊お夏一味との合同の盗めを助(す)けてくれるように、頼まれた。
いま、だれに属しているかと訊かれて、おまさは「〔大滝〕の五郎蔵お頭の下で」と答えておき、すぐさま、鬼平の指示をあおいだ。
(参照: 〔荒神〕のお夏の項)
結末:日本橋箱崎町2丁目の醤油酢問屋〔野田屋〕を襲った〔荒神〕と〔峰山〕一味は、待ち構えていた長谷川組に捕縛されたが、〔荒神〕のお夏だけは、どこをどうかいくぐったものか、姿を消した。
捕縛された賊たちは全員死罪。
つぶやき:若年寄・京極備前守の領内から盗賊をだすとは---と、しばらくは信じられなかった。
『よい匂いのする一夜』(講談社文庫)の[丹後峰山 和久伝]を読んで、池波さんが3回、峰山町を訪れていることを知った。
講談社文庫
1970年ごろ(昭和45 47歳)と、1975年(昭和50 52歳)の文藝春秋主催の文芸講演会、そして雑誌『太陽』連載のための1979年(昭和54 56歳)の旅がそれである。
〔峰山〕の初蔵の『オール讀物』への登場は1986年8月号だから、京極備前守が峰山藩の藩主だったことはとっくに承知していたはずである。
ちなみに、激務の鬼平をいたわる若年寄・京極備前守高久の『鬼平犯科帳』への初登場は、『オール讀物』1972年6月号[流星]で、史実の高久は、このとき65歳であった。
ぼくと峰山町とのつながりは、『町史』をめぐって、きわめて学究肌の2人の郷土史家とつながりができ、相互に教授しあったことである。
最近では、藩主の末裔の京極さんがひょっこり、〔鬼平〕クラスを受講され、知己をうることができた。しかも、すまいが隣組とわかり、えにしの不思議におどろいた。
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