映画[大川の隠居]
中村吉右衛門丈=鬼平のVTRでは、[6-5 大川の隠居]は独立短篇としてでなく、[8-4 流星]と合わせて、スペシャル長篇となっており、題名も[流星]のほうが取られている。
松本幸四郎(白鴎丈)=鬼平では、[大川の隠居]として、脚本・野上龍雄さん、監督・丸山誠治さんで、第89本目として1972年3月16日に放送された。
萬屋錦之介さん=鬼平でも、同じ脚本を、監督・高瀬昌弘さんが撮り、1982年8月17日オン・エア。
どちらも観た記憶がない。
『オール讀物』平成元年(1990)7月臨時増刊号[鬼平犯科帳の世界](のち文春文庫に改編)に、池波さんが寄せた「著者が選んだ鬼平ベスト5」では、
大川の隠居
瓶割り小僧
盗法秘伝
山吹屋お勝
本門寺暮雪
で、トップに[大川の隠居]を置いている。それほど、愛着が濃いのであろうし、読み手側も、血なまぐさい場面が描かれていないこの短篇を推す人が多い。
80歳の老女ファンなどは、小学校高学年の国語の教科書へ収録すべきだとまで肩の入れようである。
「大川の隠居」の巨鯉にはモデルがある、と教えると、彼女、足の痛みをこらえながら鯉塚のある竜宝寺を訪れた。
その[大川の隠居]が、なぜ、[流星]と合わさってしまったのか。
脇の主役が〔浜崎〕の友五郎で共通しているから、視聴者に理解が得やすいということもあろうが、むしろ、テレビ向きとしては、80歳老女があげた長所が、弱点になったとも考えられる。
つまり、テレビ版鬼平にはつきものの、長谷川平蔵の刀技や、火盗改メ与力・同心たちの殺陣(たて)を見せる場面がない---ということ。観る者は、あれらの場面でスカッとしていると、制作側が考えているらしい。
それで、派手な斬りあいのある[流星]で補ったのではないか、と勘ぐってみた。まんざら間違ってはいまい。
[大川の隠居]が持つ暗喩---江戸期の人たちが親しんでいた非日常の魔珂不思議な世界の情緒---が、テレビでは十分に伝わらなかったのではなかろうか。
そう気づいて、スペシャル[流星]の制作陣を改めて見直したら、脚本・野上龍雄、監督・小野田嘉幹とあった。
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コメント
5月の新橋演舞場の昼の部に歌舞伎「鬼平犯科帳・大川の隠居」がかかっています。
勿論平蔵は吉右衛門、そして友五郎は歌六が演じております
>テレビ版鬼平にはつきものの、長谷川平蔵の刀技や、火盗改メ与力・同心たちの殺陣(たて)を見せる場面がない---<ということで「大川の隠居」はテレビでは敬遠されているようですが、
歌舞伎の舞台では反対にそんなところが好まれて平蔵と友五郎二人の絡みが見せ場のようです。
投稿: みやこのお豊 | 2007.05.08 22:10