与詩(よし)を迎えに(7)
「藤六(とうろく)。おぬし、一足先に駿府へ参り、 おれの到着が一日か二日遅れると、朝倉ご奉行の役宅へ通じておいてくれぬか」
小田原の脇本陣〔小清水伊兵衛〕方を発つ朝、銕三郎(てつさぶろう)は、供の藤六(45歳)に命じた。
「若、お疲れですか?」
「うん。久しぶりの遠出で、いささかくたびれておる。それで、箱根の湯に、一日、二日か、浸(つ)かって行きたい。これは、駿府で、おれを待っているあいだの、夜の軍資金だ」
「これは、どうも---。それでは、お言葉のとおりにさせていただきます」
「うん。おれはこれから、、〔ういろう〕へ立ち寄って、朝倉ご奉行への見舞いの〔透頂香(とうちんこう)を求めてくる。おぬしは、先をいそげ」
「はい。駿府でお待ちしております」
箱根道へ急ぐ藤六の背中へ、声にはださず、銕三郎は胸の奥でつぶやいた。
(してやったり。三島での一日がこれで得られた)
三島へは昼に着き、大社の裏のお芙沙(ふさ)の消息を近所で聞いてみるつもりなのだ。
さて---。
このアーカイブの書き手は、ずっと、思案しつづけてきた。というより、探しつづけてきた。
なにを? 銕三郎がお芙沙に再会できたとして、その様子を伝える絵を、である。
4年前の初めての出会いの姿は、なんども引いたように、歌麿『歌まくら』[若後家の睦(むつみ)]に象徴させてきた。
偶然に出会ったこの絵、着衣とはいえ、銕三郎がお芙沙に抱いているイメージに、あまりにもぴったりしすぎていることに、あとで気がついた。
で、4年後---銕三郎は18歳、お芙沙は30歳になるかならぬか。その2人の出会いにふさわしい絵をさがしまくったのだが、出会わない。
お芙沙は後家か人妻だから、眉を落としていなければならない。
(北斎『ついの雛形』[豪的なおんな]部分)
(北斎『させもが露』[好色女の独言]部分)
さすが、北斎。法悦の境地をただようこの面もち---とくに、見るでもなく、閉じるでもない双瞳には瞠目(?)。
与詩(よし)を迎えに(7)
(北斎『させもが露』[若後家の好色]部分)
(国貞『艶紫娯拾余話』[水原]部分)
(国芳『江戸錦吾妻文庫』[後家の介抱]部分)
(国芳『江戸錦吾妻文庫』[舐乳]部分)
どうも、どれも、銕三郎が描いているイメージではなさそうだ。歌麿の若後家の、匂うように上品で、それていて秘めた色気がほしいのだ。
これでは、銕三郎をお芙沙にあわせるわけにはいかなくなってきてしまう。
それでも、読み手の方々が、だれそれの絵でいいのでは---とおっしゃるのであれば、ご支持にしたがうのにやぶさかではない。
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