{備前屋〕の後継ぎ・藤太郎(6)
翌日から、連れだっての江戸見物がはじまった。
---といっても、真夜中まで飽きもせずに閨事(ねやごと)にふけっているので、起きだすのは近隣の農家からの手伝い婆やがやってくる五ッ(午前8時)をまわってからだから、朝餉をとってから髪結いを呼び、支度がととのうの四ッ半(午前11時)をすぎた。
藤太郎(とうたろう 17歳)は、〔備前屋〕の津軽まわりの廻船で江戸へやってきていた。
しぱらく江戸に滞在し、商いと世事を見聞してから陸路を帰ることは、船長(ふなおさ)に[おおはま〕を通して伝えてあるし、飛脚で与板にも報じたから、あとは与詩(よし 28歳)の女躰探求にはげむだけであった。
与詩は与詩で、三宅の爺さんからはえられなかった性の奥儀を、若くて剛直・長大の持ち主と悦所を究(きわ)めることに貪欲であった。
事実、夜ごとに---いや、手伝い婆さんに駄賃をもたせ、隅田川の向こうの浅草あたりまで買い物へだし、昼間っからでもだが---28歳にしてまったく新しい性感の掘りおこしがつづいた。
きょうの散策は、秋葉大権現社と千代世稲荷へ参詣し、隣りの庵崎(いおざき)で鯉料理〔武蔵屋〕で昼餉(ひるげ)をとり、飛木稲荷に賽銭を献じ、三囲(みめぐり)稲荷の先の竹屋の渡しの脇の船宿で舟をあつらえて大川を遡行して寺島村の寓へ戻ってくるという順路であった。
町方の女房風のこしらおも板についてきた。
(秋葉大権現・千代世稲荷 『江戸名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)
(庵崎の鯉料理屋群 同上)
(庵崎の鯉料理屋〔武蔵屋〕 『江戸買物独案内』)
与板の大店の長子だけあり、金づかいにはこだわらなかった。
それに、寺島村の寓居への支払いは必要なかった。
江戸のどこを訪れても藤太郎が吐く言葉は、山が遠いととう感慨であった。
与板は、山が家々へのしかかるように迫っていた。
関東の平べったさは、藤太郎には信じられないことであった。
きょうも庵崎の料亭〔武蔵屋〕で鯉の洗いを味わいながら、
「与詩さん。一度、与板へ来ませんか? そうだ、中山道から奥州街道をゆったりといっしょに泊まりをかさねながら歩けたら、すばらしい道中になりそうだ」
「いまでも腰がだるいのに、そんなにつづけたら、歩くのが退儀になるでしょう」
「疲れたら宿場々々の継ぎ馬に乗ればいい。ぜひ、母にも会ってほしい」
男友だちをつくった母・佐千(さち 38歳)の性の求めのことは、すでに理解が及んでいた。
もっとも、男を許すこととは別の論理であった。
「お母上になんといってお引きあわせいただくのですか? 初めての放射をおうけしたおんなとでも? お、ほほほ。お母上が、それこそ、腰をお抜かしになりましょう」
茶目っ気で応えたが、内心はともにしている夜を永びかせたい一心でもあった。
藤太郎が与板に去ったあと、孤閨を守りきる自信はとうに失せていた。
自分も佐千のように男友だちをつくるであろう。
そのことは、兄に伝えて承諾をえるしかない。
家格にかかわるというのであれば、家を捨てることになろう。
おんなとして性の法悦に開眼することは、武家の寡婦としては、もしかすると不幸を背負うことになるのかもしれない。
いや、武家の寡婦とかぎることはない、町方のおんなであっても煩悶の責め苦はおなじであろう。
どうして世間はそのことがわかってくれないのか?
なぜ、鞭打つのであろう?
藤太郎のような青年を引きあわせた兄・平蔵を恨めしくもおもった。
「あと、2夜ですね」
湯殿の腰置きで太腿にまたがっての交合が、もっとも与詩を荒らぶらせ、乱れた。
奥の奥への刺激で失神、気がもどったときには閨に寝かされていた。
最後の夜には、藤太郎の肩に葉型がのこされた。
与詩の乳首も色が変わっていた。
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コメント
相生町のお藍(らん)です。
藤太郎も与詩もおさかん。若いからつづくのでしょうね。とりわけ17才の藤太郎のほうは――――。
与詩のとんてもない僥倖に妬けてるあたし。
投稿: 相生町のお藍 | 2011.12.15 06:48
>相生町のお藍 さん
3連ちゃんのコメント、ありがとうございます。
平蔵のヰタ・セクスアリスも狙っているので、仇っぽい濡れ場を書くたびにおっかなびっくりだったんです。「真面目にやれぇ」なんてご叱声がくるのではないかとびくびくものなんです。
お藍 さんのように認めてくださるお方もいらっしゃるので、ほっと胸をなでおろしています。
お気持ち、うれしくお受けしています。
投稿: ちゅうすけ | 2011.12.15 09:45