〔備前屋〕の後継ぎ・藤太郎(5)
「長谷川さまは、冷酒---それも、雪片のざらめを添えた、とりわけ冷たくした酒がお好きでした」
【参照】2011年3月11日[与板への旅] (7)
「燗はいかほど---?」
橋場の料亭〔植半〕から取りよせておいた料理を並べながらの与詩(よし 28歳)の問いかけに、藤太郎(とうたろう 17歳)が誇らしげに応えた。
(橋場の木母寺脇の料亭〔植半〕) 『江戸買物独案内』
「雪片のざらめを---お母上の発案だったんですか?」
外での平蔵(へいぞう 40歳)の挙措をしることよりも、雪国・与板にある〔備前屋〕という大店のあれこれをおもいうかべたかった。
たった一度、それも湯殿の腰置きに座っていた藤太郎の太腿にまたがった交合のあと、藤太郎とそのまわりのことをもっとしりたいとおもうようになってきたのは、おんなごころかもしれない。
湯殿でのことは、藤太郎が閨(ねや)まで待ちきれなかったからであった。
与詩の躰も熱く求めていたが、初体験はきちんと閨(ねや)でとのかんがえと、いえ、おんなが処女(おとめ)の徴(しる)しを捧げるのとは異なり、藤太郎のばあいは初めておんなに突入した思い出であろうし、それはこの10日間近くの愛の行為がひとかたまりとなって覚えられようから、ここでの初っぱなの接合にそれほど意味はあるまい---自分に都合のいいように割りきった。
躰がそれほどに求めていたのである。
太腿にまたがり、緩急をつけて腰を浮沈させる交わり方は、与詩も初めてであった。
嫁ぐときの秘画の一つにあったが、三宅の爺ィさんの小柄な体格では試すことはためらわれた。
(北斎『万福和合神』 イメージ)
それを試みる機会がきたのだから、与詩としても期待十分でのぞんだ。
相手のものが長大だったことも幸いしたが、腰を緩急をつけて上下させている与詩のほうが先に達しそうになりあわててしがみついた。
放射の瞬間、与詩の名を連呼してくれたことも、悦びを倍加した。
冷酒を酌みかわした。
藤太郎は酒造家の世継ぎらしく強くなっていた。
【参照】2011年3月11日[与板への旅] (14)
「母はもっと強く、長谷川さまのお相手がつとまりました」
与詩は、兄と〔備前屋〕の女将との閨事(ねやごと)を連想したが、すく゛に打ち消した。
そのことをしっていたら、藤太郎はこんどの母の睦みごとにいきりたつより、平蔵に怒りをぶつけたはずだ。
平蔵のことは、
「長谷川さまはこうなさった、長谷川さまはああおっしゃった」
尊敬の科白をこぼすはずがない。
「藤太郎さま。お酒のせいではなく、さきほどの湯殿でのことで、腰がふらふら、力が入りません」
酌をしながらいったが、青年は微笑し、与詩の腰丈の紅花染めの閨衣(ねやい)に見とれていた。
与詩は、里貴(りき 逝年40歳)や奈々(なな 18歳)の片膝立ての座り方を見ていないから正座していたが、両膝がこころもちひらいていたのと、丈が短いために下腹のところで裾が割れ、黒毛がのぞいていた。
そこのところは与詩も察し、ことさらに胸元をゆるくして、乳房のふくらみが青年の視野へ入るような着つけにしていた。
藤太郎の好奇の視線が増してくるにつれ、淫らっぽい姿態で青年をさらに刺激してやるのが楽しくなった。
そうはいっても武家育ちのおんなだから、限度はわきまえていた。
膳にあった卵焼きの小片を半分くわえ、半腰で藤太郎の口の前こさしだし、受けて噛みきった唇を吸った。
半腰からなおるとき、さらに裾と膝をひらき、膳を脇へ遠く押した。
相手もその仕ぶりをj真似、抱いてきたので倒れた。
おっかぶさってきたのを掌でさえぎり、
「閨で---」
抱きあげらてれ閨へ運ばれた。
「灯火を---」
灯火がはこばれてくると、股を開き、
「また、見て---」
いいなりであった。
「横にきて---乳を吸う?」
(髪結いのこと聴いてなかったけど、明日、婆やに訊けば済むか)
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コメント
相生町のお藍(らん)です。
藤太郎は、なんなく関門を通過したようですね。おめでとう!
与詩の上位は正解みたい。
歳上の女性が初穂いただきの一つのスタイルですね。
参考になります。
投稿: 相生町のお藍 | 2011.12.15 06:40
>相生町のお藍 さん
>参考になります---か。お藍 さんほどの達人であれば(---というのはコメントからの推測ですが---)別のスタイルもご考案になったでしょうが、体験の貧困なちゅうすけとしては、映画『氷の微笑』でシャロン・ストーンの演技から類推しました。
お粗末。
投稿: ちゅうすけ | 2011.12.15 09:34