与板への旅(14)
「長谷川さま。藤太郎(とうたろう 13歳)の母として、お礼をいわせてくださいませ」
平蔵(へいぞう 36歳)の手を両掌ではさんだ佐千(さち 34歳)は、その手をわが胸へあてた。
着物の上からでも、胸のふくらみが伝わってきたが、
「藤太郎どのに、どのようなよいことをしたかな?」
とぼけた。
「〔備前屋〕の全財産を積んでも購(あがな)えないような気位をお与えくださいました」
片掌を放した佐千は、平蔵の手を八ッ口へ押しこんだ。
平蔵の指が、おんなの肌にとどいた。
乳房のふもとであった、
着物の上から、佐千が胸元に達していた手を圧し、
「一人前の男として遇してくだされたと、藤太郎は天にものぼるほどに誇りにしております」
佐千が上半身をよじったので、平蔵の指が乳頭に達してしまった。
堅く突起していた。
3児にふくませた久栄(ひさえ 29歳)のと同じように、太くもあった。
(2児をそだてたのだからな。とうぜんだ)
児をなしていない里貴(りき 37歳)のそれになじみすぎていた。
この乳首でそだった子の一人が、いま、話題にのぼっていた。
自然に指が動いた。
「あれしきのことを、藤太郎どのは、それほどに喜んでくれていたか」
「長谷川さまと秘密を守る堅い約定をしたから、私にも洩らせないと申し、得意になっております」
さらに躰を移した。
平蔵の指が右の乳房へ触れた。
「私とも秘密をおつくりくださいませ」
「------」
「ここでなら、洩れませぬ」
上躰をあずけ、左腕を抱くようにまわしてきた。
唇が平蔵の耳朶を噛み、押し倒した。
かすかに、襦袢が裂ける音をたてた。
唇が重なった。
「待たれよ。袴を脱(と)る」
「うれしい」
「藤太郎どのに知れると、軽蔑---いや、憎まれよう」
「知れるはずはありません。私も秘密を守ります」
袴を脱ぎ、足首だけを炬燵の布団に入れ、仰向けに寝た。
待ちかねていた佐千が裾をひらき、下帯の前あてをはずした。
平蔵のものが興きあがっているのを、いとおしげに唇で愛(め)で、幾度もため息を吐き、うめいた。
鳥の鋭い啼き声がした。
「百舌(もず)です。冬場の餌をあさっているのです」
「こんなふうに---2年ぶり」
「亭主どのは---?」
「病臥(ふせ)ったきりで逝きました」
横に寝た佐千の秘所へ指が触れた。
充分すぎるほど潤っていた。
まさぐりながら、
「守りきればいいものを---」
「そのつもりでおりました。でも、長谷川さまにお会いした瞬間、守りきれないと悟りました」
「あの下帯で、か?」
「いいえ。湯殿でお裸を目にして、あのお腕に抱かれてみたいと---」
腰が動いたとたん、指がすべりこみ、おんながうめいた。
2人とも、着物をつけたままであったから、終っても、ちょっと身づくろいをなおすまでのことであったが、佐千のほうは帯をむすんでいるので、横たわるしかなかった。
平蔵も向きあった。
「守っていた操(みさお)を破り、後悔していないか?」
「とんでもございません。うれしゅうございました。長谷川さまのなによりのお宝を、存分に受けとめさせていただきました」
「ややができるかもしれないぞ」
「かまいません。私は、ここの主人でございます。藤太郎も、長谷川さまからの弟と知れば、よろこびましょう」
「そうであってほしい」
指は、お互いものをなぶっていた。
もよおしてきそうであった。
「ただ、こころのこりは、肌と肌が触れ合えなかったことでございます。今宵、藤太郎の代わりにおそばで眠りとうございます」
紅潮してきていた。
平蔵の指が中で這っていたのである。
「今夜、藤太郎が眠りこんだら、この部屋へお渡りになってくださいませんか?」
「藤太郎が目覚めるかもしれないぞ」
「お酒(ささ)で眠らせましょう」
【参照】2011年3月5日~[与市へのたび] (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) 8 (9) ((10)) (11) (12) (13) (15) (16) (17) (18) (19)
| 固定リンク
「017幕閣」カテゴリの記事
- 寺社奉行・戸田因幡守忠寛(ただとを)(4)(2010.10.19)
- 寺社奉行・戸田因幡守忠寛(ただとを)(2010.10.16)
- 本城・西丸の2人の少老(6)(2012.05.07)
- 本城・西丸の2人の少老(5)(2012.05.06)
- 本城・西丸の2人の少老(4)(2012.05.05)
コメント
佐千さん、藤太郎の秘密を上手に使って、ついに目的をはたしました。
私など、求めていても自分から手をだしてはいけないとおもい、ぐっとこらえます。
このブログの女性は、佐千さんにしても、里貴さんにしても、貞妙尼にしても、お竜さんにしても、平蔵へは積極的にアタックしていました。これは見習うべきなのか、ちゅうすけさんがこれからの女性の井タ・セクスアリスを描いていらっしゃるのか。
投稿: mine | 2011.03.18 06:21
>mine さん
先に声をかけられないのは、男のほうかもしれません。もちろん、男から誘いかけられるのは、拒絶するにしても、おんなの金鵄勲章でしょう。勲章は多いほどいい。けれど、ふつうの男性は、拒絶されたときのパツの悪さもあって、声かけをひかえます。
投稿: ちゅうすけ | 2011.03.18 13:03