火盗改メ・堀 帯刀秀隆(4)
「建部(たけべ)どの---」
増役(ましやく)・建部甚右衛門広殷(ひろかず 54歳 1000石)が、呼びかけた今夕のもてなし役の贄(にえ) 越前守正寿(まさとし 41歳 300石)のほうへ耳をつきだした。
年齢も家禄も建部のほうが本役・贄よりも上だが、役職でいうと、同じ先手の組頭でも、弓組は鉄砲(つつ)組よりも上位につく。
さらに、火盗改メでは、本役は助役(すけやく)と増役の上に立つ。
しかも、贄 越前守は先任であった。
「気のきいた同心を3名ほど---とのお申し出でありますが、先手34組をみわたし、この50年間、火盗改メの経験を通算でもっとも長く経験しておる組は、自慢ではないが、われの弓の第2の組です」
建部広殷も助役・堀 帯刀秀隆(ひでたか 45歳 1500石)もうなずかざるをえなかった。
それをたしかめた上で、贄本役が提案した。
「どうでしょう、建部どの。増役の役明けは明年の4月あたりでしょうから、それまでの5ヶ月に日限をかぎり、わが組から気のきいた同心を3名、お貸し申そう。なに、代わりは無用です。わが組の目白台の組屋敷から建部どのの四谷南伊賀町のご役宅まで通わせます」
意外な申しでに、建部増役は面くらい、あわてて謝絶した。
「建部どの。この席へ長谷川うじを招いたのは、同心3人以上の力をお持ちだからです。火盗改メの役目のことで、お困りの節は、長谷川うじの上役である、西丸・書院番第4の組の番頭(ばんがしら)・水谷(みずのや)出羽(守勝久 かつひさ 59歳 3500石)さまなり、われへお話しあれ」
贄 本役の言葉に、安堵の色をみせたのは、堀 助役であった。
よほどに難題が嫌いらしかった。
平蔵(へいぞう 36歳)へ目顔でのこるように示し、本町の有名菓子舗・〔鈴木越後〕の折箱をみやげにもたせて助役と増役を送りだし、贄が戻ってきた。
「今宵は、特別なおこころ遣いを賜り、ありがとうございました」
平蔵が礼を述べると、
「いや、じつは、も一つ、用件があってな---」
贄 正寿が告げたのは、意外なことであった。
【ちゅうすけのひしり言】じつをいうと、建部甚右衛門広殷が組頭をしている先手・鉄砲(つつ)の第13の組は、与力は建部組頭のいうとおり6騎と少ないが、同心は40人と、ほかのほとんどの先手組よりも10 人多いのである。
建部組頭が堀 帯刀秀隆へが同心の交換を催促したのは、ほかに狙いがあったのであろうが、ちゅうすけはそれをはかりかねている。
しいて推測すると、堀秀隆の用人が賄賂をむさぼっているのを、暗に替えよと忠告したのかもしれない。
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