お通の恋(3)
「ほいでね、お通(つう 18歳)はんが訊くん、最初の時、どこにどないして通すんって」
「きわどいな」
奈々(なな 18歳)に会うことをすすめたのは平蔵(へいぞう 40歳)ではあったが、お通があからさまに初会のことを訊くとは予想もしていなかった。
「そんなん、寺子屋---こっちゃは手習いどころとかゆうんやったね。あそこでおんなになった徴(しる)しらの月のものが始まった子同士、話しおうてるやん---ここからややがでてくるし、種が入るんもここやゆうて」
お通は10歳の時から昼間は〔三文(さんもん)茶亭〕で母・お粂(くめ 36歳=当時)の手助けにかかりっきりで、同じ齢ごろの手習い子たちと徴(しる)し談義)やふくらみはじめた乳房のくらべっこをすることを経験していなかった。
「月のものの手当ては、ぜぇんぶ、お粂(45歳=)はんから教わったゆうてた」
「そこが接合の門だということまで手引きしたのか?」
「まさか。相手の男はんのいわはるままにしたらええ、ゆうたら、弘二ゆう人は、まだ、おなごを抱いたことがないんやって自慢されたん。そんなん、自慢することやあらへん、いおうおもたけど、わけ訊かれたら蔵(くら)はんの手練(てだ)れ---足練れ? をいわんならんし---」
「2人の閨(ねや)ごとは、ほかにもらしてはならぬ」
「せやから、奈保(なお 22歳)はんに訊いとおみ、ゆうといた」
(安(やっ)さん(多岐安長元簡(もとやす 31歳 奈保の夫)に「好女(こうじょ)」の条件をたれられたら、江戸育ちのお通が自信を失いかねないから、安さんに警告しておかないと---)
【参照】2010年12月21日[医師・多紀(たき)元簡(もとやす)] (5)
「お通は、本気で弘二とやらに抱かれたがっておるようであったか?」
「思いつめとるようやった」
「弘二が抱きたいといったのか?」
「いわれてぇへんよって、想うてくれてぇへんと---むすめやったら、だれかてそないに悩むもん」
「奈々も覚えがあるか?」
〔蔵はんのときほど真剣やないけど、ちょびっとはあった」
「誰だ?」
「忘れてもうた。忘れさせたんは蔵はんやけど---」
「いまが大事だ。奈々はわれの宝ものだ」
「うれしがせはるぅ。あんじょ腰まわしまひょ」
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コメント
そうか、お通ちゃん、十歳で仕事に就いてしまっていたのね。だから、同年輩の女の子たちとあんまり会話していなかったんだ。セックスの話題はまるでおぼこい。
奈々ちゃんほうは、村で耳年増になっているし、平蔵おじさんとの実地で応えているもんね。
これからは奈々ちゃんが、よいセクシュアル・パイロットになってあげるといいね。
投稿: michi | 2011.11.15 06:52
同じ18歳。
江戸育ちのお通ちゃんは、弘二くんの手に触れただけで電気が走ったみたいに感じるおぼこさ。
紀州の田舎育ちの奈々ちゃんは、里貴おばさん仕込の腰丈の閨衣に片膝立てで平蔵さんに向き合うコケティッシュ派。
それぞれの男性に似合いの相手とおもっちゃいます。、
投稿: tomo | 2011.11.15 07:07
>michi さん、tomo さん
文章作法の基本の一つに、対比というのがあります。黒白、天地、清濁---まるで反対な者同士を造形するのです。お通と奈々 ---江戸育ちと村方育ち、おぼことおきゃん、処女と体験豊富といったことでも対照的といえませんか。それが、2人の今後の生き方、幸不幸にどんなふうにあらわれるのか、ぼく自身も興味津々です。
投稿: ちゅうすけ | 2011.11.15 12:46