火盗改メ本役・堀 帯刀秀隆の組替え(3)
「これは根も葉もない噂で、組といたしてははなはだ迷惑をしておりますが、手前ども与力10名が5両(80万円ずつ)、同心30名は1両(16万円)ずつ、計80両(1280万円)を堀 お頭(かしら)の用人へつかませて弓の7番手へ組替えしてもらったなどと---」
次席与力・高遠弥之助(やのすけ 43歳)がしゃもの肉をつまんだ箸をとめ、怒りの言葉を吐いた。
【ちゅうすけ注】噂は、この2年後の天明7年、老中首座になった松平定信側の隠密が耳にした記録を呈上している。(『よしの冊子』)
つまりこの噂は2年ものあいだ、中級以下の幕臣たちのあいだでささやかれつづけていたともいえないことはない。
いや、もしかすると、これは堀 帯刀秀隆(ひでたか)をおとしめるための記録ではなく、田沼意次(おきつぐ 老中 相良藩主)の時代には買職があったらしいとの噂の一つとして記録されたのかもしれない。
真相は藪の中である。
先手組頭の発令と同時に組替えという例は、河野勝右衛門通哲(みちやす 62歳 600石)以前にも以後にもこの1例だけであり、きわめい異例のことがおこなわれたといえる。
そのことに触れていない『よしの冊子』の信用度はかなり低いといえよう。
ただ、堀 秀隆の側にも、脇の甘さがあったことは事実であろう。
とりわけ平蔵(へいぞう 40歳)は、堀家の用人の一人には不快なおもいをさせられているが。
(先手・弓の7番手の組頭 前田、横田、河野、堀の発令歴 『柳営補任』)
(先手・鉄砲の16番手 本多、堀、河野の発令歴)
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