〔海老坂(えびさか)の与兵衛
『鬼平犯科帳』文庫巻1の[浅草御厩河岸]に登場する本格派のお頭。
年齢・容姿:50がらみ。でっぷりと肥えている。
生国:大坂。ただし、出自は「通り名」にしている越中(えっちゅう)国射水郡(いみずこおり)海老坂村(冨山県高岡市の海老坂)
高岡市から万葉ラインに海老坂(高岡市のリーフより)
探索の発端:「御厩の渡し」のある三好町で小さな居酒屋をやっている豆岩を訪ねてたきた老爺が、かつてのよしみだからといって、巨盗の名門〔海老坂〕の与兵衛のつとめを手伝わないかと誘った。
老爺は、福富町の浄念寺の寺男となって身を隠している彦蔵であった。
いまは火盗改メの密偵(いぬ)である豆岩としては、願ってもない探索の手ずる---と肯首はしたものの、三代もつづいて首領をやっている〔海老坂〕の与兵衛に会うと、その貫禄と信頼感にたちまち魅了されてしまい、密告(ち)くるどころではなくなった。
結末:けっきょく豆岩は、長谷川組に借りだされた与力・佐嶋忠介へあてた手紙を残し、一家で夜逃げ。〔海老坂〕与兵衛一味は、豆岩の密告文によって逮捕された。
処刑のことは書かれてはいないが、これまで盗んだ金額が金額だから、全員死罪になったろう。10両盗めば打ち首という時代であった。
つぶやき:〔海老坂〕の与兵衛は、『鬼平犯科帳』に登場する、数少ない本格派盗賊の一人である。『鬼平犯科帳』は、本格派盗賊への挽歌ともいえる小説なのだ。
と同時に、『オール讀物』1967年12月号に単独短篇として掲載されたこの篇が呼び水となって、翌新年号からシリーズ『鬼平犯科帳』の連載が始まったのだから、記念すべき好篇でもある。
豪華客船〔飛鳥〕の船客となって、東京港から神戸、唐津、屋久島、釜山を遊覧、冨山県の伏木港で下船したことがある。海老坂は伏木のすぐ西、高岡から氷見(ひみ)への中間にある。
もっとも、〔海老坂〕一家は、越中から出で、大坂に居をかまえていたのだが。
朝日CC[鬼平]クラス 河内三郎さんのリポート
海老坂村(現:高岡市 東、西 海老坂)富山平野、庄内の西側で、伏木港と守山町の中間の丘陵部、高岡市では西北部、小矢部川左岸より二上丘陵地帯にかけてひろがる地域です。
北にあたる氷見方面へ向かう海老坂峠は難所として知られています。
海老坂村は、近世初頭、東海老坂村と西海老坂村に分村、明治22年(1889)に射水郡守山村、須田村、五十里村、東海老坂村、西海老坂村が合併して守山村となり、昭和17年(1942)年に高岡市へ編入。
土地の大半を山林が占め、田畑は全体の3割程度。農林業が主体で、明治初頭には養蚕業が盛んになりました。
地勢としては、関西圏、京・大坂の文化圏です。
〔海老坂〕の与兵衛
・盗賊の首領で50歳前後。文中に「越中の生まれ」とあり、〔海老坂〕の通り名から、射水郡海老坂村の出身とかんがえられます。
・盗賊の家系で、3代目といいますから、盗賊界の名門の出ですね。
・大盗賊の理想をつらぬき通した人物で、真の盗賊の3ヵ条を金科玉条として守りました。
・部下思いで、計画はまことに綿密で、実行者(配下)もその妙味にほれこむほどでした。
・度量は大きく金払いがよいので、配下に慕われました。
・一度引退して足を洗ったにもかかわらず、余生を送るための金のため、改めての計画で失敗します。
私の評価・しょせん、現場の職長クラスかな、と。
・配下を信頼するあまり、部下も自分を信頼としているのはどんなものでしょう?
・過去の実績に自分自身が酔い、老齢になっていることを忘れたようですね。
・過去のお勤めの中心は関西だったはずで、関東(江戸)とは縁が少なく、情報も多くはなかった点についての評価はどんなものでしょう?
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コメント
前にもお知らせしましたが、文庫巻5[おしゃべり源八]を読みかえしていて、あたしの好きな人……〔小房〕の粂八つぁんは、2年ほど〔海老坂〕の与兵衛お頭の下でお盗めをしていたことがあるって書かれています。
それが、いつごろのことかはわかりませんが。
「伝五郎のいうことに、うそはございますまい」と、これは、むかし伝五郎と共に盗賊・海老坂の与兵衛配下として二年ほどはたらいたことのある小房の粂八のことばである。
([5-4 おしゃべり源八]p145 新装版p153 )
〔海老坂〕のお頭がぐっと身近になりました。
投稿: 裏店のおこん | 2004.12.31 06:24
>おこんさん
そうでした。
粂八は〔海老坂〕のお頭の下にいたことがあったんですね。
年譜で確認してみると、20代中ごろから28歳のあいだ2年間か、30歳から32歳ごろのこととしか、考えられません。
もうすこし時間をください。
投稿: ちゅうすけ | 2004.12.31 12:34