男の脱皮どき
舞台には道化役(コメディ・リリーフ)が必要だ。いや、道化役といってはいいすぎか。
舞台を明るくする人物といいかえよう。
戯曲作家から出発した池波さんは、とうぜんそのことをわきまえていた。
木村忠吾は登場時期だけが問題だった。
第九話[谷中・いろは茶屋]が忠吾のために用意された。
忠吾は祖父の代からの御先手同心で、御頭の長谷川平蔵が盗
賊改方に就任してからは、彼も当然、御頭をたすけて刑事に
はたらくようになったわけだが、
「とても、あやつはつかいものにならん」
と、上司たちにきめつけられている。
この初登場のときが寛政3年(1791)、24歳。鬼平の火盗改メ就任以前の6年前に父親が病死、18歳の彼が跡目をついだ。
母親あさも物故している。
縁者といえば、旗本・金森与左衛門の用人をつとめている叔父の中山茂兵衛ぐらい。この仁[5―4 おしゃべり源八]、[16―1 影法師]に顔を見せる。もちろん、同心・吉田藤七の4女・おたかとの婚儀の席では、忠吾の父親代わりをつとめたはず。
芝・神明前の菓子舗で売っている〔うさぎ饅頭〕にそっくりなので「兎忠」とよばれてもいる。
(兎饅頭の項を参照)
池波さんは現代青年ふうの忠吾を可愛がっていて、[谷中・いろは茶屋]以後の153話中107七話に登場させた(67パーセント)。
各文化センター[鬼平]クラスの受講者に忠吾お気に入りの理由を書いてもらったキーワードは、すでに紹介ずみ。
この忠吾がしっかりした判断をしめしたのは、長編[15 雲竜剣 急変の日]で、仕事の相方に最年長の同心・吉田藤七を選んだときである。
鬼平に、
「おや---?」
と、おもわせた。
男いっぴき、いつもでもコメディ・リリーフではいられない。
池波さんは、男のみがきどきをいいたかったのであろう。
つぶやき:
木村忠吾が、先輩の吉田藤七を仕事の相方に選んだのは、長篇[雲竜剣]で、東海道・南江(なんご)の松林の中の報謝宿を見張ったとき。
岸井良衛『五街道細見』(青蛙房)
南江は、前掲の[おしゃべり源八]にも出てくるが、このときは岸井良衛『五街道細見』(青蛙房)の記述にしたがって(なんこ)とルビしているのに、[雲竜剣]ではなぜ(なんご)とにごらせた? と疑問を呈しているのは、鬼平熱愛倶楽部でともに学んでいる。相州藤沢宿の秋山太兵衛さん。
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コメント
そうですね。
チームを組んで仕事をやるときにはどうしても「叱られ役」「ひょうきん役」などが必要になってきますね。
真面目だけのチームだと息抜きがなく長続きしないようです。
平蔵の人扱いのうまさもこの点に多分にあったような気がします。
投稿: 靖 | 2006.05.02 07:53
兎忠役の尾見としのりさんも、面白い役者
さんですね。
いい役者さんに囲まれたTV版での修行の
おかげでしょうか?
映画『郡上八幡』でも、庶民から見た
お役人のイヤラシサ、でも人としての
感情の出し方、わずかなシーンですが
秀逸だと思いました。
ではまた!
投稿: えいねん | 2008.09.14 02:42
ごめんなさい。『郡上一揆』2000年でした。。。
原作も素晴らしいですが、90年代TV版
鬼平シリーズに集った役者さんたちの
フィルモグラフィーを見ていくと、
とても面白いです。
おまさ役の梶芽衣子さんも80年の萬ちゃん
主演の「それからの武蔵」からの
積み重ねがあるなぁ…と思っています。
シャーロキアンのように鬼平研究家が
出てくるのも頷けます。ではでは。
投稿: えいねん | 2008.09.14 02:52
幸四郎(白鸚)丈=鬼平シリーズでは、忠吾役は志ん朝さんでした。
そのとき、志ん朝さんは、生まれて坊やに忠吾って名をつけたと。
尾美としのりさんは、志ん朝という目標があって、さらに工夫をかさねられたのでしょうね。
鬼平ビデオのフィルモグラフィーがあるなんて、知りませんでした。URLを教えてくださいますか。
投稿: ちゅうすけ | 2008.09.14 06:46
こんにちは。お返事遅くなりました。
フィルモグラフィーって書き方が混乱
させてしまったかもしれません。お詫びします。
ワタクシは以下の書籍を底本にして見ています。
・「鬼平」を極める[愛蔵版]TV「鬼平犯科帳」大百科 1994年
→1~5集分
・「見よ銀幕に」2002年 の鬼平部分
→私家版なので入手は困難
また、ご存知だと思いますが;
http://homepage1.nifty.com/gorozo/
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD27836/cast.html
その他映画情報サイトからリンクを手繰って
DVD/VIDEOを入手してみています。
映画ってのは20世紀の唯一生んだ綜合
芸術ですから、見手の教養を物凄く
要求しますね。シェークスピアの芝居
狂いと一緒かなぁ。
ビスコンティの「山猫」で、彼の魅力に
嵌まり込んで、暫く欧州の歴史から抜け出せませんでした。。。
って、まだ継続中ですけど。
ちゅうすけさまのページを発見して、
江戸中期の政治・経済構造に関して
再度興味を持ちましたので、著作を
手配してみました。
そうそう「レッドオクトーバを追え」
の紅茶、非常に効果的な使われ方を
しますね。
相変わらず与太になってしまいました!
ではでは。ちゃお!
投稿: えいねん | 2008.09.15 15:09
>えいねん さん
貴重な情報、ありがとうございました。
鬼平ビデオは、鬼平クラスをやっていた時、レクチャーのあと、ずっと見せていました。
みんなでみると、発見もあります。
また、2度、3度とみていくと、感動は薄れますが、発見は重なります。
『「鬼平」を極める』には、カバーに撮影所で吉右衛門さんのサインをいただきました(ミーハーに徹して)。
江戸中期から後期を、長谷川平蔵がらみで調べているのは、あのころにできた日本人の心情がいまだに尾を引いていることが多い---田舎育ちなので、田舎の習慣・心情も覚えているのです。
これからも、ご叱正。お教えください。
投稿: ちゅうすけ | 2008.09.17 07:08
>えいねん さん
ずっと前に書いた、深井雅海さん『徳川将軍政治権力の構造』による、田沼意次の[郡上八幡一揆]への処分のかかわり方がおもしろいです。いつか、ご覧ください。
http://onihei.cocolog-nifty.com/edo/2007/08/post_1ac2.html
投稿: ちゅうすけ | 2008.09.17 07:17
私は・・・今晩は
ちょっと初めてのスタイルの所なので、
とまどっています・・・
少しずつ闇夜にを慣らすように・・・
伺わせて頂きます
投稿: tommy | 2008.09.29 16:19