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2006.05.04

マニュアルづくり

■大川の隠居
■瓶割り小僧
■盗法秘伝
■山吹屋お勝
■本門寺暮雪

作者・池波正太郎さん自身による「鬼平ベスト5」だ。
『オール読物・平成元年7月臨時増刊号・鬼平犯科帳の世界』に載った(のち、ほとんどの記事を同題の文春文庫が収録)。

「瓶割り小僧」をのぞき、ぼくのベスト5も右のとおり。まあ、こういうベスト選定は好きずきだから…。「瓶割り…」にかえてぼくが入れているのは「あきれた奴」。

盗法秘伝は、テレビでひとりづとめの伊砂(いすが)の善八に扮した故フランキー堺さんの飄逸な演技が特筆ものだった。

Photo_4
左下・小窓の第16話が[盗法秘伝]

よく、まあ、おぼえているなって? 『鬼平犯科帳』のビデオテープを購入、くりかえし観ているのだ。
幸いなことに中村吉右衛門丈=鬼平のビデオ化は第8期だかまですすんでいて、 120話前後が観賞できる。購入するなりビデオショップで借りてご覧になっては。

池波自選ベスト5に「盗法秘伝」が入ったわけは容易に想像できる。

一、つとめ(盗み)するときは、まず、月の出入りの時刻を、よくよく知りわきまえおくべきこと。夜のつとめには月のひかり大敵なり。
一、家やしきへ忍び入るには、やしき内の人のねむりふかければ、もっともよし。で、中春の末あたりと冷気が帰ってくる中秋がいい。夏は暑さのために寝つきにくいから、真の盗人は夏ばたらきはしない…など。

少年時代から白浪(しらなみ)ものが好きだった池波さんのこと、自身が泥棒になったつもりで、盗みの極意マニュアルを考案している。

もっとも小説で公開されている「盗法秘伝」は右のくだりだけ。未公開の後半部はどこにあるのだ…と真顔で質問した文化センター[鬼平]クラスの受講生がいたのには泡をくった。

盗賊を白浪と呼ぶのは、漢末のむかし、陝西省・白波谷(はくばこく)にたてこもって略奪をはたらいた者たちを白波の賊と名づけたから。

さて、善八にすっかり見込まれ、盗みのマニュアルを譲られそうになった鬼平は、盗賊逮捕マニュアルもつくるべきだと思ったかどうか。小説はそこのところまでは書いていない。

長谷川平蔵の政敵で後任者となった森山源五郎は「前任の火盗改メ(長谷川組)が、引きつぎの事件簿を一通ものこしていないのは怠慢きわまる」といいたてて、筆が立つことを利して書類づくりにはげんだ。

平蔵にしてみれば、盗みのやり方は盗人の数だけあり、それぞれ異なっているのだから、探索マニュアルなどさほど役には立つまい、と断じていたフシがある。

マニュアルをつくるボスになるか、身をもって範を示すことで教えるリーダーになるか、あなた次第だが、森山マニュアルが実戦の役に立ったという記録はない。

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コメント

盗法秘伝,一つ一つ納得です。

平蔵はマニュアルを作らなかったそうですが、
現在はマニュアルずくめのような気がいたします

投稿: みやこのお豊 | 2006.05.04 22:21

先生は私と同じようなことをしているのだなと感じました。

私も「鬼平犯科帳」のビデオを観ていますが、本の方も繰り返

し読んでいます。 文章の表現が好きなんです。

付け加えますと、4・5十年前に観た映画、殆どはアメリカの

映画ですが、DVDで500円の安物、例えば「ローマの休

日」などをを購入し見ています。 先生お元気で!

投稿: edoaruki | 2006.05.05 10:58

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