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2006.10.03

十合(そごう)九郎兵衛

きのう、『鬼平犯科帳』連載の2年前---1967年に、池波さんが『『週刊朝日』の4月28日号から6月16日号に、[上泉伊勢守]を連載したことを、報告した。

『鬼平犯科帳』との関連でいうと、十合高種の、剣聖・上泉伊勢守日秀綱(のち、武田信玄から一字もらって、信綱)への挑戦ぶりと結末を、長谷川平蔵を襲った数々の剣客たちに重ねることができようか。

こんど新潮文庫に収録された[上泉伊勢守]は、これまで朝日文庫『日本剣客伝 上』(1968.3.25)iとして刊行されたほかには、文庫となっていなかったらしい。
10月1日の朝日新聞の新潮文庫の広告のリード文に、そんな意味のことが書かれていた。

さて、新潮文庫の解説を書いた文芸評論家の末国善己さんは「池波は、上泉秀綱がお気に入りだったらしく、後にその人生を長篇小説『剣の天地』にまとめている。『剣の天地』には、[上泉伊勢守]と共通するエピソードも多いので、本作を読んで秀綱に興味を持たれた方は、一読をお勧めしたい」。

21150手元の文庫本から『剣の天地』を探したが、あったはずのものがない。しかたがないから『完本 池波正太郎 大成』巻21で再読した。

『剣の天地』は、山陽新聞をはじめとする14の地方紙に、1973年から317回にわたって連載された。大筋は中篇[上泉伊勢守]と大差ないが、隠し味のはずの十合九郎兵衛高種が冒頭から登場する---ということは、敵を倒した剣客は運命的なものを背負って生きなければならないという、長谷川平蔵、秋山小兵衛にも通じる宿命を、池波さんは『剣の天地』の上泉伊勢守に、より強く与えている。

[上泉伊勢守]、あるいは『剣の天地』でもいい、そこのところを再確認しながらお読みになると、鬼平にふりかかる危機が、理解できる。

もうひとつ。
池波さんは、[江戸怪盗記]という短篇を、4年後に、さらに倍以上の紙数にふくらませて[妖盗葵小僧]のタイトルで『鬼平犯科帳』の1篇としている。
池波さんの、アイデアのふくらませ方を知るにも、[上泉伊勢守]から『剣の天地』へと読みすすむと興がさらにひろがる。

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