『甲子夜話』巻26-16
『甲子夜話』巻26-16
守宮(いもり)黒焼を媚薬に用いることは、世に知られている。
かつて田沼氏が閣老(老中職)にあったとき、その臣に井上伊織〔家老〕、三浦荘司・黒沢一郎右衛門〔用人〕などは世にときめいていた仁たちで、身分の高い人も低い者も、へつらって、雲望(猟官)の梯路(踏み台)としていたものだ。
この黒沢なる仁は、はじめ、主人に気に入られていなかった。
で、人も寄ってこなかったことを憂えていた。
ある日、例の黒焼を求め、ひそかに主人にふりかけたところ、その効き目か、これより気に入れられるようになり、
世の人も黒沢に媚びるようになったので、自分にも自然に徳がついて結構。左右と眤近(じっきん)にもなった。
そんなある日、ことの次第を主人に告げたところ、主人は咲(わら)ったと。
その時世といい、その事といい、よく似合っていることよ。
(ちゅうすけ注) 黒沢といえば、田沼意次の継室(後妻)が黒沢家の出。
黒沢の祖先を遠くたどると、安部貞任・宗任にもつながる。
出羽国置賜(おきたま)郡小松に住していたため、あるときは小松、また黒沢を称したと。
黒沢一郎右衛門がその一族の縁者とすれば、継室の関連だから、田沼氏がやや出世してからの召抱えかかえで、それだけ井上伊織や三浦荘司より存在の浸透度が薄かったのであろう。
これもどうでもいいほころびだが、大石慎三郎さん『田沼意次の時代』(岩波書店)のp43と同書の岩波現代文庫p44が『甲子夜話』巻24の26話としているが、巻24には11話までしかない。
この誤記のことは昨日、岩波書店へハガキで通じておいた。
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コメント
イモリの黒焼の媚薬って、女性に呑ませるんじゃなかった? 惚れぐすりでしょう?
あるいは、静山ご隠居は、自分で試したのかな。
それはともかく、『甲子夜話』にはこのテのマユツバ話が多くて、閉口。
投稿: ちゅうすけ | 2006.12.02 13:10