宣雄に片目が入った(7)
2008年7月6日[宣雄に片目が入った] (2) に、『徳川実紀』の寛延元年(1748)閏10月9日から、
西城書院番に入番二十七人。(日記)
を引き、この26人を暇を、見て、またも『寛政重修諸家譜』を総ざらえする---が、いまは無理だ---と書いた。
手持ちの『寛政譜』は22冊で、総ページは約8,800---先日の総ざらえには、1週間、延べ60時間かかった。
その残影で、いまでも『寛政譜』の細かい活字を30分も見ていると、めまいがしてくる。
30分ですすむのは、約60ページ。
それでも、長谷川平蔵宣雄(のぶお 30歳=寛延元年)が西丸の書院番士だった11年間の、同僚を見つけるのはおろか、本城もふくめて両番(書院番と小姓組)の番士だった幕臣に一人も出会えないことが多い。
ということから、両番の家がそれほど多くはなさそうだと思えてきた。
両番筋の家はいったい、何家ほどあるのだろう---という疑問がわいた。
書院番組は、本丸が6組、西城に4組で、各組50人ずつ。
小姓組も同じ。
つまり、どちらも500人ずつが勤めているということ。
両番筋の家を調べる方策を、思いついた。
手元の『江戸幕府旗本人名事典』(原書房 1989.6.30)全3巻 プラス別巻で、「番役筋」をひろう方法がそれ。
この便利する労作は、石井良助先生監修、小川恭一さん編。
どんな記述内容かは、とりあえず、長谷川平蔵宣義(のぶのり 小説の辰蔵)の項の一部をご覧いただこう。
氏名
禄高
知行地
本国
本姓
番役筋
勤仕時
以下勤仕
昇進
家紋
年令(寛政11年 1799)
役職
嫡子役職
寺
その他
屋敷
譜(寛政譜の巻とページ)
が一覧できる。
氏名の頭についている数字は、通し番号。
第3巻の最終番号は、5186---つまり、5186家収録されているということ。
えっ? 最後の人の姓? 藁科(わらしな)家だけど、[両番]じゃなく、[大番]筋。
ここから、「番役筋 (両番)」を抜粋すればいい。
しかし、第1巻に収録されているあ行・か行だけでも、639ページ、2009家。全体の38.73%。
だったら、とりあえずは、両番の家数をだいたい推定するだけなのだから、第1巻だけやって、61.27%を計算で補うという、ズルをすることにした。
第1巻の結果は---
200石~ 7家
300石~144家
400石~ 48家
500石~ 85家
600石~ 35家
700石~ 45家
800石~ 18家
900石~ 13家
1000石~ 66家
1100石~ 9家
1200石~ 19家
1300石~ 6家
1400石~ 5家
1500石~ 42家
2000石~ 48家
計 590家
2009家中の590家を、5186家に拡算すると、お目見以上には、ざっと1500家の有資格家があり、実際に番入りできるのは3分の2家ということらしい。
(数学のできは最低だったけど、この程度の大ざっぱな計算ならでき、実社会ではたいていのことはこれで間に合ってるってことを、平方コンって綽名(あだな)だった中学の数学教師にぶつけたい)
宣雄の、西丸・3番組の書院番士は、そのまた20分の1の50名。
さらに、宣雄といっしょに番入りしたのは、その半分ほどの26人。
要するに、30分の6倍---3時間、『寛政譜』とにらっめっこしていても、この人たちに出くわす確率はきわめて低そう。
魅力のない結果がでそうなリサーチだから、これは、あきらめたほうが賢明みたいだ。
その体力と努力と時間を、ほかのリサーチにまわそう。
あ、そうそう、あやうく、忘れるところだった---書院番士と小姓組番士は、300俵格。
廩米1俵は知行の1石とおなじと幕府側も歴史研究者も見ているって、この前、書きましたよね。
300俵の家数が多いのは、そのせい。
要するに、お目見・直臣なんだから、しっかり励め、っていわれているみたい。
また、3000石以上の家は「寄合(よりあい)」に格付けされる。
2750石なんてのも、2000石以上に一括したから、その家からは、ひょっとしたら、2500石~ ってランクもつくれって文句がでそうだ。まあ、3家ほどしかなかったけど。
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コメント
『江戸幕府旗本人名事典』(原書房)は、19年前の定価で、4巻とも各19,000円でした。
いまなら、とても買えませんが、当時はどこからお金を都合していたのかなあ。自分でも不思議。
投稿: ちゅうすけ | 2008.07.13 17:11
『江戸幕府旗本人名事典』 いい本を紹介していただきました。別巻を読むだけで勉強になりそうですね、手元においておきたいものです。お金がないから、必要な箇所だけコピーしておきます。それにしても、編集された方のご苦労はどんなものだったでしょう。
投稿: パルシェの枯木 | 2008.07.14 07:26
>パルシェの枯木さん
ご推薦の別巻は、編著者の研究発表のようなもので、小川恭一さんの勉強ぶりと、リサーチ好きがうかがえておもしろいですね。
ぼくは、『寛政譜』を愛読しているため、巻末の総索引を便利に利用そせていただいています。
小川さんのご著書では、『お旗本の家計事情と暮らしの知恵』(つくばね舎 1999.7.16 2500円)を所有しています。
投稿: ちゅうすけ | 2008.07.15 16:43