[火つけ船頭(巻16)]注解
先週の6月5日(第1日曜日)の午後は、JR静岡駅ビネルのパルシェ7FにあるSBS学苑の[鬼平クラス]の日であった。
もう6年もつづいているのでテキストは、文庫16巻[火つけ船頭]まですすんできた。
当日の[火つけ船頭]は、盗賊の追捕(ついぶ)の物語りである『犯科帳』のなかでも、いささか風がわりな要素が濃い。
というのは、原鉱用紙80数枚の1話の中に、当時は犯罪と見られていた所業が4種類も描かれているからである。
1は、〔岡本(おかもと)〕の源七(げんしち 45,6歳)一味による日本橋南鞘町の畳表問屋〔近江屋〕六兵衛方での、おもいもよらない未遂盗奪事件(草加宿に本拠をおき、かずかずの犯行をかさねてきていることはいうまでもない)。
2は、〔関本〕一味に手を貸した浪人・西村虎次郎(とらじろう 30がら)が同じ長屋の船頭・常吉(つねきち 29歳)の女房との密通。
3は、西村虎次郎がこれまでにやってきた20:件の辻斬り。
4は、船頭・常吉がおこなった放火。
鬼平のころの犯罪は、「公事(くじ)方御定書(おさだめがき)」によって裁かれた。
ところが「公事方御定書」は秘密あつかいで、3奉行(寺社奉行、町奉行、勘定奉行)以上の幕閣でないと見ることができなかったらしいが、それは表向きで、奉行所内はおろか、しもじもでも、「10両盗めば首がとぶ(斬首の死罪)、有夫の女房(妾も含む)との密通は、男女ともに死罪で、密通現場で夫に刺し殺されても不問としっていた。
放火犯は、裁かれれば火刑(火あぶり)であった。
辻斬りは?
もちろん、死罪。
それらの「公事方御定書」の条文を、畏友・福永英男さんの労作・私家版[『御定書百箇条』を読む](2001.12.16)を引いて注解した。
じつは、、「公事方御定書」を収録した『禁令考』はかねてから所持したいたはずだが、今度の震災による書斎の倒壊で所在がいまだにしれないので、福永さんの名著から抜粋・コピーして配布した。
第五六条 盗人ぬすっと)御仕置の事
(従前々の例)
②一、人を殺し盗み致し候者 引き廻しのうえ獄門。
(享保七年極)
③一、盗みに入り刃物にて人におっけ候者 盗物(を)持主へ取り返し候とも、獄門。
(追加・従前々の例)
但し、忍び入りにてこれなく候とも、盗み致すべしと存じ、人に疵つけ候者 死罪。
(享保七年極)
④一、盗みに入り、刃物にてこれなきほかの品にて人に疵つけ候者 右同断 死罪。
(従前々の例)
⑤一、盗み致すべしと徒党致し、人家へ押し込み候者 頭取 獄門。同類 死罪。
(以下、略)
従前々の例)は「まえまえから例」と訓じる。
おまさ などがやった引きこみは、
(従前々の例)
⑦一、盗人の手引致し候者 死罪。
第四八条 密通御仕置の事
(従前々の例)
①一、密通致し候妻 死罪。
(同)
一、密通の男 死罪。
この条文通りだと、[火つけ船頭]の船頭・常吉の女房・おときは、遠島ではなく死罪にならなければいけない。
もっとも、現今の世情だと、妻の不倫はさほどに珍しくもなく、離婚ていどですますことが多いようであるから、池波さんも遠島ですましたのかもしれない。
第七一条 人殺し並びに疵(きず)付け御仕置の事
一、辻切り致し候者 引き廻しのうえ死罪。
第七〇条 火附(ひつけ)御仕置の事
(従前々の例)
①一、火を附け候者 火罪。
(寛保二年極)
②一、人に頼まれ火を附け候者 死罪。 ゛
(従前々の例)
但し、頼み候者 火罪。
(享保八年極)
③一、物取りにて火附け候者引き廻しの儀 日本橋、両国橋、四谷御門外、赤坂御門外、昌平橋
外
右の分引き廻し候節、人数多少によらず、科書きの捨札建て置き申すべく候。もっとも、火を附け候所、居所(の)町中引き廻しのうえ火罪申し付くべき事。
但し、捨札三十日建て置き申すべく候。
(以下、略)
「公事方御定書」は、八代将軍・吉宗の命によって整備されたことをつけ加えておく。
さらに余計なひと言。
百三条をその気になって読んでいると、江戸の市井ものの3篇や5篇はすに構成てきそうな気がしてくるから妙だ。
| 固定リンク
「199[鬼平クラス]リポート」カテゴリの記事
- テキスト[網虫のお吉](2)(2011.04.11)
- 平蔵の先祖の城址ウーキング(2011.11.01)
- 銕三郎が盗賊をつくった?(2011.08.19)
- 元盗賊〔堂ヶ原(どうがはら)〕の忠兵衛(2011.07.17)
- [火つけ船頭(巻16)]注解(2)(2011.06.13)
コメント
不勉強でした。鬼平の時代、『公事方御定書』により、辻斬りが死罪と初めてしりました。このブログ、ほんとうに助けになります。
投稿: 文くばりの丈太 | 2011.06.12 05:38
>文くばりの丈太 さん
「人殺し」の条文のなかに1項目たててありました。ということは、実際に試し斬りなんかでやったのでしょうね。
もちろん財布狙いもあったでしょうが、殺したところで金がどれほど入っているかわかりませんから、危険な所業でもあったでしょう。
投稿: ちゅうすけ | 2011.06.12 14:41