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2012.02.17

西丸・徒の第2組頭が着任した(5)

東金(とうがね)清兵衛(せえぺえ 40まえ)を瀬名伝右衛門貞刻(さだとき 37歳 500石)へ引きあわせ、
{割りにあわない話ばかりもちこんで相すまぬが、貧乏神をしょいこんだとおもってあきらめてくれい」
深々と頭をさげる平蔵(へいぞう 40歳)に、貞刻が驚いた。
天下の旗本が商人---それも幕臣から利をかせいでいる蔵元に対しての所作であったからである。

「なにをおっしゃいますか、長谷川のお殿さま。手前どもこそ、いつも殿さまにお助けをいただいております。お礼をもうしあげるのは手前どものほうです」
清兵衛の言葉に貞刻も、男と男の惚れあいを納得した。

参照】2011年9月24日[札差・〔東金屋}清兵衛] (

用向きを聴いた清兵衛が、
「せっかくのお話でございますが、〔東金屋〕としては、お引きうけかねます。いえ、逃げているわけではございません。お徒士(かち)衆は、それぞれ何代もつづいた蔵宿をお使いでございましょう。そのあいだからは、こう申しては失礼ですが、お武家さまとご主君とのあいだがらに似ております。持ちつ持たれつでございます。簡単に切れるものではございません。で、いかがでございましょう、とりあえず、ご出仕がむつかしいお方々お名書きと借財なさっている蔵宿をお洩らしいただき、その店を検討させていただくということでは---?」

ただし、金を融通している札差しの店名と金額、利子率の聞きだしは極秘とし、徒士(かち)衆も告げたことをいっさい口外しないということでことをすすめてほしい。
というのは、店側がそれなりの対策をこころみない短時日のあいだにことをえさめてしまいたいためである、と清兵衛が声をひそめて説いた。

まず、〔東金屋〕が〔ほうらい屋〕を出ていった。
天王町には蔵宿が30店ほども軒をつらねていたから、肩をならべて出るのは目立ちすぎた。

平蔵が御厩河岸の渡しの舟着きへの道順を瀬名伝右衛門に教えてから、一足先にでた。
勘定は清兵衛をすませていた。
「〔東金屋め」
平蔵伝右衛門に聞こえないように小さく舌打ちしたあん按ずるほどの按ずることはなく、暗くなっていた通りに面した蔵宿はどこも大戸をおろしていた。

野良犬がごみ箱をあさっていたが、平蔵の姿を認めると逃げさった。
晩秋の夜風が、酒のあとだけににこころよかった


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099幕府組織の俗習」カテゴリの記事

コメント

コメントするまえに、【参照】をみていると、ついつい、あちらこちらととんで、時間が経過してしまいます。〔東金屋〕清兵衛、平蔵との付合は短いですけれど、存在感は濃くなっていますね。「40まえ、ちょっと窪み目だが柔和に見えるようにこころしている男」とのこと。池波さんは、想定している役者などの写真を近くに置いて、見ながら書きすすめたそうですが。清兵衛なら誰でしょう。

投稿: 安池 | 2012.02.17 15:09

>安池 さん
16日に入院し、左肩下に点滴口をつけましたが、病状のすすみが早くて、喉に口をあけるために3月上旬までの入院継続になりました。したがって3月のクラスには出られません。安池さんに司会をしていただき、クラスをすすめていたただくよう、事務局にお願いするつもりです。
2泊3日の入院が突然延びたので、きょう(2/19)は、病室(個室)で調べものをする史料をとりに午前中3時間帰宅しました。

清兵衛の役者ですが、最近、まったくテレビをみていないので見当もつきません。
むしろ、安池さんのおこころあたりをおきかせください。

投稿: ちゅうすけ | 2012.02.19 09:24

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