西丸・徒の第2組頭が着任した(3)
茶寮〔季四〕の朝鮮料理は、ことのほか徒(かち)の組頭を喜ばせた。
最老格の5の組頭・桑山内匠政要(まさとし 61歳 1000石)にとっても、次老の3の組頭・沼間(ぬま)頼母隆峯(たかみね 53歳 800石)にとっても、朝鮮は縁遠い国というより、思慮のほかの国であった。
なにより感謝したのは、招待者の瀬名伝右衛門貞刻(さだとき 37歳 500石)で、
「これまで、だれもやったことのない新任披露の宴であったと最老どのも次老どのもことのほかご満悦でございましでしてな。さっそく、ご内室方とともに再訪したいとの申し出を女将が食材がそろわないからと断ったものだから、余計に手前の株があがりました」
宴の翌日の謝意まじりの言辞であった。
「ついては、虫のよいお願いですが、材料が希少ないことは重々わかっておりますが、長谷川さまのお顔で、手前どもの室と2人分だけでもなんとかならないものでしょうか?」
「女将に訊いてはみるが、たぶん、無理と存ずる---」
平蔵(へいぞう 40歳)とすると、うかつに便宜をはかると、今川系の幕臣のあいだにうわさがひろまり、奈々(なな 18歳)に食材調達の苦労をかけ、はては抜荷にまで手をそめることにもなりかねない。
(男というのは、おのれの顔がきくところを見せたがるつまらない見栄のために、しなくてもいい気苦労をしょいこむ生き物なのだ。忙しそうに駈けずりまわっているうちの半分近くは、おのれが発した力みの言葉に因る)
(とはいうものの、われの探索好きにも、見栄に拠(よ)るところがないでもない。藩公や火盗改メのおだてにのっているところもある。われにはいまは捕縛・裁きが資格があるわけではないのだから、これからは適当に受け流しておこう。しかし、生来、捕縛・裁きごとが好きなのも認めざるをえない)
半月ばかりたち、瀬名伝右衛門貞刻が相談ごとかあるから、一献傾けながら---と誘ってきた。
「朝鮮料理の件なら、女将の硬い意向はお伝えしたはずだが---」
「その件は室からすごく恨まれたが、なんとかあきらめさせました。別件です」
「どのような---?」
「組の徒士たちのお蔵米のことです」
「ならば、蔵前天王町に〔ほうらい屋〕という小体(こてい)な茶飯をあきなう店がある」
松造(よしぞう 35歳)を先に帰らせ、蔵元の〔東金(とうがね)屋〕清兵衛(せえべえ 40まえ)に待機していること、〔ほうらい屋〕の奥の席をとらせておくようにさせた。
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