松代への旅(13)
「愚息は12歳で、まだ役にはたちやせん。従弟に新平(しんぺい)という23歳になるのがおりやす。これを〔音羽(おとわ)〕のの許に出しやしょう」
深谷(ふかや)宿一帯の香具師(やし)の元締・〔延命(えんめい)の伝八(でんぱち 38歳)が賛成した。
お江(こう 18歳)が、[化粧(けわい)読みうり]の中山道板をつくる話をもちかけ、自分が江戸へ修行に行くといったときの伝八の返答であった。
伝八の内儀は稲荷町で、芸者の置き屋をやっていた。
稲荷町と本住町に多い料亭や旅籠からお呼びがかかった。
平蔵(へいぞう 40歳)たちは伝八の家から2丁(220m)ほど西よりの仲町の脇本陣の一つ、〔中瀬屋〕に宿をとっていたので、すすめられた盃を安心して重ねた。
伝八がすすめ上手でもあった。
「お江さんのところでは、ずいぶんともてなされたから---」
盃を伏せたときには、お江の足もとがふらついてので、
「お江さんだけでも泊まっていきなせえ」
伝八が親切にいったが、断った。
出衣装の芸妓たちに支えられていたが、本住町の料亭の前で平蔵と松造(よしぞう 35歳)に托された。
松造がお江の躰に触れるのを遠慮したため、平蔵が腕を肩へまわし、脇腹をかかえて〔中瀬屋〕へたどりついた。
お江の部屋にはすでに布団が延べられていたが、松造は入るのを避けた。
女中と2人がかりで寝衣に着替えさせたが、女中が去ると平蔵の腕をつかみ、
「お頭(かしら)といっしょに寝る」
起きようとするのをやさしく抑え、
「酔いが醒めてから、こっそりな。いまは人目がある」
こっくりうなずいたので、背中を支えて水を注いだ湯呑みに手そえたまま口にあてると、半分ほどを胸元にこぼした。
いそいで胸と乳房にあてた手拭いの上からお江の手が押しつけ、甘え声て、
「お臍(へそ)---」
「臍がどうした?」
「冷たい---」
横たえて寝衣をひらき、一筋たれていた水を拭く。
とたんに両足をひろげたので、股まであらわになった。
黒く密生した芝生と足ををちらりと見たが、形のととのっているのはふくらはぎのほうだとわかった。
寝衣の前をあわせてやっているうちに軽いいびきをかきはじめたので、下腹のあたりを軽くたたき、部屋をでた。
2刻(4時間)ほどたった四ッ半(午後11時)ごろ、暗闇の中に人の気配にを感じて身がまえると、横に枕を置いてお江がすりよってきた。
わざと寝入っているふりをよそおった。
昨夜のように左足を平蔵の上にのせ、素の局所を太腿(もも)に密着させ、腰をだいて引き寄せたまま動かなかった。
平蔵も反応しなかった。
指でまさぐられたらこらえきれなかったろうが、そこまでは思いつかなかったらしい。
そのまま、寝息に変わった。
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