おまさ、[誘拐](8)
お竜(りょう 享年33歳)という不思議なキャラのことを書こうとして、わき道へそれてしまった。
銕三郎(てつさぶろう 23歳=当時)は、盗賊の軍者(ぐんしゃ)をしていたお竜(29歳=当時)がお勝(かつ 27歳=当時)の立ち役であることはこころえていたから、そういう色模様抜きでお竜の知恵を借りようと、向島の寮を訪問したときのことであった。
明和3年(1766)のことであったから、いまの寛政7年(1795)からいうと30年ちかくも前のことで、銕三郎は先ゆき、〔荒神(こうじん)〕のお夏(なつ)に2度もかかわるなどと予見もしていなかった。
【参照】20081116~[宣雄の同僚・先手組頭](7) (8) (7) (8) (9)
変な表現だが、銕三郎はお竜の最初の男になってしまった。
もちろん、最後の男でもあった。
文庫巻23の[炎の色]でおまさが五郎蔵に語ったお夏の印象をまた聴きをすると、一瞬にしてお夏をおんなおとこと推察したが五郎蔵にはふせ、五郎蔵の義理の父にあたる〔舟形(ふながた)〕の宗平(そうへえ 70代)にいいつけ、物乞い姿で弥勒寺門前に張りこませた。
門前のお熊(くま 70歳近い)の茶店〔笹や〕に寄留しているおまさを訪ねてくるに違いないお夏の本性をたしかめさせるためであった。([炎の色]p149 新装版p )
訪ねてきたお夏は、おまさの右腕を両手でつかみ、ゆっくりと摩(さす)った。
おまさの躰が、かっと熱くなった。([炎の色]p146 新装版p )
おまさ、37歳。
お夏、25歳。
お腹がすいたというお夏のためにおまさが菜飯をつくっているそぱで、お夏は袂(たもと)からだした紙を引き裂(さ)き、竈から火を移しては燃えつきる炎のさまをうっとりと眺めていた。
それからしばらく措いた(旧暦)7 月初めの晩、奥方久栄(ひさえ 42歳)は、夫・平蔵が紙を細長く裂いて火鉢に落とし、めらめらと燃え上がるさまをむずかしい顔で瞶(み)つめている姿を見た。
二度目にお熊の〔笹や〕へあらわれたお夏が、袖口からいれた指先で大胆にもおまさの乳房をなぶり、いまの仕事(つとめ)が終わった来年には、上方(かみがた)でいっしょに暮らそうと口説いたことは、たいていの鬼平ファンは記憶していよう。
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