口合人捜(さが)し(3)
「五郎蔵。すまぬが、去年の夏から秋へかけての[炎の色]事件の経緯(すじがき)を、爺(と)っつあんに話してやてくれ」
こころえた〔大滝(おおたき)」の〔五郎蔵(ごろそう 58歳)が要領よく、おまさが盗みの道へはいって間もなく〔荒神(こうじん)〕の助太郎(すけたろう)お頭にかわいがられたこと。
助太郎お頭は14年前に亡じていること。
遺児のお夏(なつ 26歳)が二代目として乏しい配下をまとめていたが、昨年の〔峰山(みねやま)〕の〔初蔵 はつぞう 50代)一派とのあわせ盗(づとめ)にしくじり、両派ともほとんど全員処刑されたが、お夏だけ、捕縛者の中にいなかった。
もちろん、しくじりね原因はおまさが密偵であることを誰もしらなかったことによるから、もし、捕縛もれの者がいて、その気になればおまさをほうっておきはすまい----。
さすがの五郎蔵も、ここで言葉をきって息を休めた。
眼をとじて黙然と聴いていた平蔵(へいぞう 50歳)が手をあげて五郎蔵をとめ、、
「聴いたとおりてだ。五郎蔵は、お夏というおんな男の些細な色欲だというのだが、どうだろう、〔佐沼〕の。拐(かどわか)しともなると、これは死罰にもなるほどの罪である。見捨てるわけにはいかない」
「で……あっしになにをしろと」
久七は、もう迷ってはいなかった。
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