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2005.03.21

〔土崎(つちざき)〕の八郎吾

『剣客商売』文庫巻7に収録の[徳どん、逃げろ]で、下っ引きの〔傘徳〕---傘屋の徳次郎(40歳)を賭場で見込んだひとり働きの盗人。あろうことか、秋山小兵衛の家へ盗みに入ろうという、このシリーズに登場するきわめて数少ない盗人の一人。

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年齢・容姿:中年。丸顔の童顔で愛敬がある。小肥り。東北訛り。
生国:羽後(うご)国飽海郡(あくみごおり)土崎(つちざき)村(現・山形県酒田市土崎)。

探索の発端:松平肥前守(佐賀藩 35万7千石)の千駄ヶ谷の下屋敷の中間部屋で開帳されている賭場で、芽がでないので、あきらめて帰りかけた〔傘徳〕を呼び止め、盗みの片棒をかつぐように誘いかけてきたのが、〔土崎〕の八郎吾であった。

結末:親分〔武蔵屋〕の弥七の「やってみろ」のすすめで、〔傘徳〕たちが新鳥越橋のところまで来たとき、浪人4人に斬りかかられ、〔傘徳〕は来合わせた秋山大治郎に助けられるが、八郎吾は斬殺される。
不逞浪人たちは捕えられ、死罪。

つぶやき:〔傘徳〕の腕に抱かれ、八郎吾がいまわのきわの述懐をする。「男をつくった女房を殺した報いだろう」と。

八郎吾の〔傘徳〕への信頼にふれて、小兵衛がいう。「人の世の中は、みんな、勘ちがいで成り立っているものなのじゃよ」

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コメント

『剣客商売』は読み始めたばかりで、まだ第5巻の始めです。

このシリーズにも盗人が出てくるとは思ってもいませんでしたから、虚をつかれた感じです。

サブタイトルが「池波小説の盗人たちを追いつめろ」となっている意味がやっとわかりました。
盗賊団との対決の『鬼平犯科帳』だけに盗人が登場しているのではないのですね。

投稿: 練馬の加代子 | 2005.03.22 06:13

>練馬の加代子さん

ほう、『剣客商売』へおすすみになっていますか。

では、ちょっとした知識を。

秋山小兵衛は、長谷川平蔵より26,7歳年長。

平蔵は、与力同心や密偵といった専門探索方をかかえているので、『鬼平犯科帳』に登場する御用聞と下っ引きは12名。

いっぽうの秋山小兵衛は剣客浪人なので、探索要員として、四谷伝馬町の〔武蔵屋〕の弥七とその子分〔傘徳〕のほかに、33人の御用聞や下っ引きが登場しています。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.22 09:17

変化球で来ましたね。
[剣客商売]からのご出張とは
この「徳どん、逃げろ」は池波さんのお遊びの一編のような気がします。
秋山小兵衛宅に盗みに入ろうというあたり「大川の隠居」とちょっと似てますが、しかし八郎吾は友五郎がもつ枯淡の味には程遠い。
盗みに入ってたら果たして千五百両見つけだすことができたのか

投稿: 靖酔 | 2005.03.22 10:28

>靖酔さん

この篇は、〔傘徳〕を信頼した八郎吾の純真さに力点があるのでしょうね。

この連休中、ずっと藤沢周平さんの『蝉しぐれ』『隠し剣孤影抄』『隠し剣秋風抄』を再読していました。
『剣客商売』の数年後に書かれた作品群です。
池波さんは、藤沢さんを高く買って、編集者たちに「いいぞ、いいぞ」とすすめていらっしたようです。

再読して感じたのは、「ああ、藤沢作品の人物たちの、この、ぎりぎの生き方は、池波さんには書けないものだな。池波作品の人物は、やはり、本質的に楽天家なんだ。だから、読んでいて、気分が高揚する。
引き換え、藤沢作品の人物は、つねに負の人生を見つめている」
「江戸っ子作家と、東北出身作家の気質の違いかなあ」
なんて、考えこんでしまいました。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.22 10:45

容貌からして愛嬌があり、こんなに人が良くて、今迄よく盗人稼業ができたものだと可笑しくなる愛すべき八郎吾ですが、最後にみせた行動は、人が良いだけでは済まされないピュアなものを感じます。

藤沢作品は重くて読後疲れるので、あまり好きではなかったのですが、森下文化センターの講座「時代小説を読み解く」を受けて、考えが変わりました。

まだ数冊しか読んでませんが、時代小説ながら登場人物が現代に置き換えられるような身近な人達であり、
ひとりひとりの気持ちや行動がていねいに描かれて
います。

思い通りにいかない人生ですが藤沢作品には、説得性
があり、どこかで納得して強く生き抜いていく姿が描かれていて爽やかに終りますが、読後は「濃い」と
何故か考えてしまいます。
でもとても興味ある作品に変わりました。

池波さんとは、全然タッチが違いますが、「徳さん、
逃げろ」の編で秋山小兵衛が「人の世の中はみんな勘
ちがいで成り立っているものじゃよ」と言ってますが
どこか共通点があるような感じがいたします。

投稿: みやこのお豊 | 2005.03.22 14:30

>みやこのお豊さん

藤沢周平さんは、かつて同人仲間だった向井 敏くんが手がけていたので、その作品について語ることを遠慮していました。

しかし、向井くんも逝ってすでに3年。
そろそろ---と思い、森下文化センターの「時代小説を語る」講座でとりあげてみました。

お豊さんをファンにすることができただけでも、やり甲斐があったというものです。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.22 16:17

久しぶりに剣客商売を読み返しました。
(鬼平漬けだったので新鮮です)
結果的に死んでしまいますが、もし傘徳が密偵だとばれたら怒りの前にきっとこの盗賊は悲しむだろうなと読んでいました。ここで殺されてむしろよかったと思います。それにしても、浪人が現れるのも、大治郎が現れるのもタイミングのよすぎる話でした。

傘徳が鐘ヶ淵の家のどこに千五百両があるのだろか、もし見つけられたら・・・と考える姿がおかしかったです。

投稿: 豊島のお幾 | 2005.03.23 17:30

>豊島のお幾さん

〔傘徳〕も、下ッ引きであることがバレなくて、信頼を裏切らずに済んで、「ホッと」---なんて安堵じゃなく、人間として心から「よかった」とおもっているでしょう。

千五百両の隠し場所ですが、藤田まこと=小兵衛映画だと、鶏が飼われていましたね。鶏小屋の天井。

たしか、納戸から裏の竹やぶへ逃げられる仕掛けがしてありましたね。その二重の壁の中。

タタキの炊事場には、大きな水甕が置かれています。その下に穴を掘って。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.24 03:50

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