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2005.03.21

〔天徳寺(てんとくじ)〕の茂平

『鬼平犯科帳』文庫巻23は長篇[炎の色]。〔荒神(こうじん)〕のお夏一味と〔峰山(みねやま)〕の初蔵一味が共同で日本橋・箱崎町2丁目の醤油酢問屋〔野田屋〕を襲う計画をすすめている。しかし、〔峰山〕一味の狙いはもう一つある---〔荒神〕一味の腕っこきを取りこんでの自派の組織強化がそれだ。
その案を立てたのが〔峰山〕の初蔵の片腕といわれている〔天徳寺(てんとくじ)〕の茂平であった。

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年齢・容姿:50がらみ。細身の躰。細い両眼は瞼の下へ埋めこまれたようで、表情がない。
生国:若狭(わかさ)国遠敷郡(おにゅうごおり)天徳寺村(現・福井県遠敷郡上中(かみなか)町天徳寺)。
一味の頭・初蔵は丹後(たんご)国中郡(なかごおり)峰山(現・京都府中郡峰山町)の出だから、それほど遠く離れてはいない。

探索の発端:湯島天神の境内で、かつて盗みを二度ほど助(す)けたことがある〔峰山〕の初蔵(50男)に、密偵のおまさが声をかけられ、死後13年になる〔荒神〕の助太郎の祥月命日に、供養の集まりがあると知らされたことから、探索の手がかりがついた。おまさは〔荒神〕にかわいがられた。
その〔荒神〕に遺児がいた。むすめのお夏である。レスビアンのお夏がおまさに興味をもったことから話がややこしくなっていく。

結末:火盗改メが水ももらさぬ布陣をしいて待っている〔野田屋〕へ、〔峰山〕一味と〔荒神〕一味がやってきたからたまらない。初蔵は斬殺され、茂平ほかは逮捕されたが、お夏はどこをどうくぐりぬけたかものか、逃げきった。

つぶやき:「天徳寺」という村名は、この村の古寺の寺号に因る。三木姓が多いのは、赤松氏の後裔の三木城主の舎弟が帰農したから。のちに移住してきた武田氏の一族の末流は河原姓を名乗っていると。
茂平はそのいずれでもなく、苗字をもたない貧農の息子だったのかも。

「峰山」が、『鬼平犯科帳』で長谷川平蔵の後ろ盾と書かれている京極備前守高久(1万1千余石 峰山藩)の城下町であることは、池波さんも承知のはず。その城下町の名を盗人の〔通り名(呼び名)〕にした真意はなんなんだろう。

かつて、読売映画広告賞の審査員を池波さん、落合恵子さんなどと10年間ほどつとめた。雑談時に、「火盗改メは火付けも取り締まるのが役目ですよね。『鬼平犯科帳』には放火犯の事件が少ないようですが」と生意気なことを口にした。池波さんは「ぼくは、火事がきらいでね。それに、火事の描写はむつかしいんだよ」と笑った。
『炎の色』は、そのあとで発表された。池波さんの一面---負けずきらい。

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コメント

[炎の色]は、未完の長篇、巻24[誘拐]につながる大切な篇です。
[炎の色]を深読みすることで、[誘拐]の展開への、なんらかの手がかりがつかめるのではないかともおもっていますが---。

投稿: 文くばり丈太 | 2005.03.21 11:22

>文くばり丈太さん

そうでした、巻24[誘拐]は未完のままで、まだ、どなたもあれを完結させていらっしゃいません。
これまでの例だと、編集者が、目はしのきく作家の方に書きつながせるのですがね。
池波家が許可されないのか、あるいは編集者が鬼平ファンからの抗議を恐れているのか。

でも、ファンが自分流に完結させるのは自由ですから。
そのつもりで[炎の色]を読みなおすと、また、別の感想も湧いてくるかもしれませんね。

おもしろいヒント、ありがとうございました。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.21 12:22

「盗人探索日録」毎日楽しくよんでおります。
盗人のお話と共に新装版の文庫のカバーを楽しみにしております。(旧版は持っていますので。)

今日のカバーを見て気がついたのですが、私の記憶に
間違えがなければ、「鬼平犯科帖」24巻中21冊の
新旧版がUPされていますが、表紙に帯がついているのは、今回が初めてです。
何か意図があるのですか。

新装版21冊中12冊のカバーに植物とともに鳥や魚や昆虫が描かれています。
鬼の平蔵と盗賊という恐ろしい内容にしては、カバーが優しく清楚ですね。

確か15、20、21巻が未だだと思います。
楽しみに待ってます。

投稿: みやこのお豊 | 2005.03.21 15:03

>みやこのお豊さん

さすがにお鋭い。
表紙の帯は、外しわすれたにすぎません。

自分では写真の処理---カヴァーの処理---がむずかしいので、デザイナーさんにお願したのですが、渡すときに、外しわすれたのです。

あとで気がつき、外したのを再処理してもらったのですが、どこへしまったのか、それで、帯つきのをアップしました。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.21 15:34

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