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2005.06.22

〔黒坂(くろさか)〕の伝右衛門

『鬼平犯科帳』文庫巻7を彩っている魅惑的な女賊は、一編のタイトルにもなっている[掻掘のおけい]である。
40を越えていようかというのに、「なんともいえない色気があって---」と、70をすぎた〔舟形(ふながた)〕の宗平が嘆声まじりに、着物ごしに触れても、まるで生身にさわったように「指にぴりっときた」と洩らしたほどの、女躰の持ち主。
そのおけいに若さをしゃぶりとられ、〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵に泣きこんだのが〔砂井(すない)〕の鶴吉である。いぜんに五郎蔵の下にいたとき、上州・高崎でのお盗めのさなかに下女を犯した。それで追い出されて〔黒坂(くろさか)の伝右衛門の配下となったこともあった。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
(参照: 〔砂井〕の鶴吉の項)

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年齢・容姿:どちらも記述されていない。
生国:本拠は駿河(するが)国とあるが、『旧高旧領』に「黒坂村」はない。
駿河に流れてきて定着しそうな「黒坂村」としては、甲斐(かい)国八代郡黒坂がもっとも近いが、池波さんが座右に置いて重宝していた『大日本地名辞典』(冨山房)からさがすと、越中国砺波郡、北陸道にかかる砺波山の「黒坂」とも呼ばれる倶利伽羅峠は、池波小説の定番の山坂である。

探索の有無:ない。

結末:ない。

つぶやき:ほんの1行しか顔を見せない人物にまで、きちんと「通り名(呼び名)」を与える几帳面さよりも、「さあ、この土地を当ててみろ」といった茶目っ気のほうを、より強く感じる。
というのも、わざわざ「駿河の黒坂の伝右衛門」とミス・リードをさそっておいて、じつは「黒坂」は、おなじみの「倶利伽羅峠の別名ということを知っておるかの?」といいたげに、いたずらっぽく笑っている池波さんの顔が思い浮かぶのである。
さいわい、『大日本地名辞書』を調べていたので、池波さんの詭計に落ちずにすんだ。

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コメント

「黒坂」は「倶利伽羅峠」の別名とか、どのような由来があるのでしょう。

「倶利伽羅峠」というと木曽義仲の「火牛の計」の戦いを思い出します。

江戸時代は加賀藩の参勤交代の道として、賑わっていた峠、今は旧道ですが歴史的遺産の多く残っている所ですね。

池波さんの茶目っ気を推理できるのは、生前ご一緒に長い事お仕事をされた西尾先生だからこそと思いました。

投稿: みやこのお豊 | 2005.06.24 23:15

そういえば、加賀藩は倶利伽羅峠を越えて江戸入りしていたのですね。

いちど、旧道を歩いてみたいけど、体力が保つかどうか。

秋葉神社へ登ったとき、途中でなんども、死ぬか---とおもいましたからね。

年寄りの冷や水にならないようにしなくちゃあ。

投稿: ちゅうすけ | 2005.06.26 06:10

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