〔桑原(くわはら)〕の喜十
『鬼平犯科帳』文庫巻19では[引き込み女]に、巻20に所載の[怨恨]ではかなり重要な役どころを受け持つ、いまは足をあらって、南八丁堀5丁目(じつは4丁目。5丁目は近江屋板の切絵図の誤植)、京橋川に架かる中ノ橋の南詰で煮売り酒屋〔信濃屋〕をいとなみながら、盗人情報をこっそり、〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵にだけ洩らしている〔洩らし屋〕。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
年齢・家族:57歳。10年前に足をあらい、いまの店を開いた。女房のおときは20も年下。むすめのお光は7歳。
生国:屋号の〔信濃屋〕から推定。信濃(しなの)国諏訪郡(すわごうり)下桑原(しもくわばら)村(現・諏訪市四賀桑原)
探索へのかかわり:煮売り酒屋をつづけながら、かつて2度ほど助(す)けて、その人柄に好感をもっている〔大滝〕の五郎蔵にだけ、そっと情報を洩らす。五郎蔵も心得ていて、鬼平へは、喜十のことは告げていない。
つぶやき:人と人のまじわりの中で、信義というものの大切さを悟らせる一編である。喜十と五郎蔵、喜十と〔今里(いまざと)〕の源蔵の信頼関係、そして源蔵から受けた旧恩に報いようとする喜十---「恩は着せるものではなく、着るものだ」との、池波さんが長谷川伸師からうけた人生訓をみごとに小説化している。
(参照: 〔今里〕の源蔵の項)
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コメント
「洩らし屋」という言葉も気になりますが、
大滝の五郎蔵と桑原の喜十、今里の源蔵と桑原の喜十、それぞれがお互いを思いやる心、読み終わって、いつもしみじみと暖かい波が心の底に広がります。
私の好きな「鬼平犯科帳」の一篇です。
投稿: みやこのお豊 | 2005.06.24 23:24