〔布屋(ぬのや)〕久太郎
『鬼平犯科帳』文庫巻13の巻頭に据えられている[熱海みやげの宝物]で、〔馬蕗(うまぶき)〕の利平治が連絡(つなぎ)をつけようとしている〔高窓(たかまど)〕の久兵衛の嫡男。すなわち、〔高窓〕一味の2代目を継ぐべき立場なのだが、大坂の足袋屋〔布屋久太郎〕を名乗って江戸へ出てしまっている。
(参照: (馬蕗〕の利平治の項)
〔高窓〕を乗っとろうとしている越前・福井の浪人あがりの高橋九十郎に組みする連中が、利平治にくっついて離れないのは、一つには久太郎を殺(や)ってしまいたいため、一つには利平治がつくっている〔甞帳〕をうばうため。
そのことを、鬼平夫妻とともに熱海の湯につかりにきていた彦十が聞いてしまった。
年齢・容姿:27歳。容姿の記述はない。
生国:摂津(せっつ)国東成郡(ひがしなりごうり)か、西成郡(にしなりごうり)のどちらかの布屋村(現・大阪市城東区か西淀川区の布屋)。
探索の発端:探索といっても、探しているのは、〔高窓〕一味の甞役の利平治である。
数年前、〔馬蕗(うまぶき)〕の利平治は、日本橋石町(こくちょう)の小さな旅籠〔扇屋〕へ半月ほど宿泊したとき、寡婦になったばかりの女将のお峰とできた。翌年、利平治と久太郎が〔扇屋〕へ泊まると、お峰はむすめのお幸とともに歓待したので、久太郎は「大坂の家より、〔扇屋〕のほうが我家のようにおもえてきた」と洩らした。それが手がかりだった。
結末:果たして久太郎は〔扇屋〕におり、お幸とできていて、盗みの世界へ戻る気はないという。そこで、利平治は自首して出、いのちより大切な〔甞帳〕を差し出す代わりに、久太郎の目こぼしを願った。
つぶやき:熱海の湯から小田原、六郷の渡し(川崎=六郷)と、物語は道中ものの形をとりながら展開する。
道中ものは、時代もの作家にとっては、書いてみたいものであり、また、アイデアにつまると書いてもしまう。この篇は、熱海の「今井半太夫」を出したかったとみる。雁皮紙で有名だった。
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