『江戸会誌』を発見!
NHK文化センター(青山)で〔鬼平〕クラスを持っていたいたころだから、8,9年も前のこと。
受講者のN氏が、国会図書館で、『江戸会誌』に載った[長谷川平蔵逸事]を発見してくださった。
そのころは『寛政重修諸家譜』と『徳川実紀』が、長谷川平蔵については、ただ二つの史料だったから、飛びついた。
というのも、池波さんもエッセイで、長谷川平蔵の発見は、『寛政譜』によるとだけ公表してい、その記述は年譜の箇条書きに近いもので、平蔵の人柄を示唆するものはなかったからである。
そんなわけで、池波さんの平蔵発見『寛政譜』説を、眉つば視していた。
たまたま手に入れた三田村鳶魚『捕物の話』(早稲田大学出版部 昭和9年刊 のち中公文庫)の[火付盗賊改]の章が発見の発端で、それから『寛政譜』で確認したのであろうと推理していた。
中公文庫
『江戸会誌』の[逸事]の稿の前段はこうである。
「長谷川平蔵は其名未考。禄は四百石。居宅は本所菊川町にあり、先手弓頭より盗賊火付改へで出役--天明八年十月より寛政七年五月、病で没するまで、およそ八ヶ年の間これを勤む。
もとより幹事の才ありしゆへ、松平(定信)楽翁の遇を得、その意を承って人足寄場を創設せしこと、または盗賊探検には許多の逸事あり(略)」
「幹事の才あり」の6文字が、池波さんに天与のヒラメキをもたらしたことは容易に想像できる。
「幹事の才」とは、すぐれたリーダーシップである。理想のリーダー像を創造すれば、平蔵になる---と池波さんは考えたろう。
しかし、池波さんはほんとうに『江戸会誌』のこの文を目にしたか?
それを確認するには、池波さんが出入り自由の許しを得ていた、二本榎の長谷川伸師の書庫を探訪する必要がある。
単なる一鬼平ファンにすぎない筆者が、長谷川伸師邸の書庫へもぐりこめた経緯は、後日に公開として---。
あった!
『江戸会誌』全18号分が3冊に合本装丁されていた。
池波さんは、[逸事]の稿を読み、あの6文字によって長谷川平蔵像を創造したことは99.99パーセント間違いない。
3冊に合本された『江戸会誌』
[長谷川平蔵逸事]が載った明治23年6月号の表紙(左)
「幹事の才あり」の稿(左ページ下段)
長谷川伸師邸の書庫内の写真は、
http://homepage1.nifty.com/shimizumon/dig/hasegawa_syoko/hasegawasyoko_sanko.html
つぶやき:
興奮がさめると、[逸事]が、長谷川平蔵が歿して95年後に書かれたものであることに注意がいった。
その間、アンチ田沼の徒による文書の消去がおこなわれたろうに、田沼派と見られていた平蔵の事跡がよくも伝えられたものだと、疑念がしきりにわいてきた。この疑念は、いまもくすぶりつづけている。
『江戸会誌』は、江戸会の機関紙である。18冊しか出ていない。明治22,3年ごろ、鉛活字の鋳造がおこなわれ、いろいろの出版物が堰をきっておとしたようにあらわれた、その一つである。
その状況は、いまのブログ、ホームページの盛況に似ているといえる。
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コメント
「あった!」というときの感動が、探索というか、
追認をするときの醍醐味でしょうか。
書かれた背景までお調べになるとは!
投稿: おっぺこと那の津のお加代 | 2006.05.25 12:57
>おっぺこと那の津のお加代さん
上っ面だけの鬼平論、印象批評の池波談義---はしたくないと心にきめているもので---。
それで、しなくてもいい、遠回りをやっています。
このブログを、できるだけ多くの鬼平ファンにとどけるにはどうすればいいかを、思案中です。お知恵、貸してください。
投稿: ちゅうすけ | 2006.05.25 13:40
こんな凄いブログ、一人でも多くのファン(のみならず)
に見ていただきたい。
もったいないです。読まなきゃソンです。
それにしても、長谷川伸さんの書庫にお出入り自由の
ちゅうすけさんとは……
投稿: おっぺこと那の津のお加代 | 2006.05.26 02:18
せめて、mixiの池波コミュの3000余人、鬼平コミュの2000余人の10%ずつでもアクセスしてくれるといいのですが、あの人たちは、歯ごたえの固いものは咀嚼しきれないようで。
それで、愛想つかして、コミュを降りてしまいました。
世の中、むつかしい。
投稿: ちゅうすけ | 2006.05.26 11:27
「鬼平」が数倍楽しめるのに、もったいないことです。
投稿: おっぺこと那の津のお加代 | 2006.05.26 14:03