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2006.06.13

業績をたどる

『鬼平犯科帳』を読む視点はいろいろだ。奥方・久栄とのやりとりから夫婦の親しいあり方や子育て法をさぐる女性読者もいれば、鬼平好みの料理を再現してたのしんでいるグルメもいる。

講じている文化センターの〔鬼平〕クラスでは、鬼平のころの江戸をより深く知る手段の一として、池波さんが『鬼平犯科帳』執筆時に机辺に置いてつねにひらいていた『江戸名所図会』の絵を彩色(ぬりえ)し、適宜展示している。

さらに、商店の記述があると、これも池波さんが身辺から手ばなさなかった資料『江戸買物独案内』で検証している。

ファンなら、第1話『唖の十蔵』に、盗賊〔野槌〕の弥平が隠れ簑として経営している王子稲荷社裏参道の料理屋〔乳熊屋(ちくまや)〕を記憶していよう。

〔乳熊屋〕とは、またずいぶん変わった屋号だが、これにはじつはタネがあるのだ。深川・佐賀町(江東区佐賀町16。永代橋東北詰)に〔乳熊(ちくま)〕という屋号の味噌問屋が前掲の『買物独案内』に載っており、池波さんはこれを借用した。

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『江戸買物独案内』(文政7年 1824刊)

〔乳熊〕は紀州・熊野出身の店で、吉良邸襲撃をして泉岳寺へ引きあげる赤穂浪士たちへねぎらい酒をふるまった。店主が大高源五と交流があったからだ。㈱ちくま食品(tel.03・3641・5101)はいまでも風味ゆたか味噌をつくっている。

『鬼平犯科帳』を起点とした深川案内の一端を披露したが、じつは『唖の十蔵』の1話だけでも、塗り絵した『名所図会』や『独案内』や江戸の切絵図を按配して絵とき・解説すると、40景前後の画面になる。

画面……そう、鬼平ファンへ公開すべく、『鬼平犯科帳』文庫何巻の何ページの場面に使われているかも添えた、もう一つのブログ[ラ空間 大人の塗絵『江戸名所図会』を立ちあげた。
http://otonanonurie.image.coocan.jp/

都営地下鉄・馬喰横山駅「ギャラリー・コーナー」も年に数回借りて掲示しているから、関東エリアの人にはじかにお目にしていただける。

Bakuros
馬喰横山駅ギャラリーの塗り絵展と塗り絵師たち

手間ひまのかかるようなことに、なぜ手を染めたか? 池波さんは、画を描いてばかりいる少年時代をおくり、祖父から「鏑木清方へ弟子入りさせてやる」といわれて本気にしていた、とエッセーで告白している。

作家になってからも、『名所図会』をひもとくと、長谷川雪旦の絵を頭の中で彩色して観賞していたろう、とおもい、それなら愛読者であるぼくたちも塗り絵して、一歩でも池波さんの世界へ近づこうというわけ。

先達の行跡をたどるのは、なにも絵や芸の世界だけではない。文章がうまくなろうとおもったら好きな作家のそれを原稿用紙に写してみることだといわれている。

サラリーマンなら、尊敬する先輩の口ぶりや思考法をたどってみる。長谷川平蔵も、亡父・宣雄の吟味ぶりや人あしらいを学び、歴代中随一の火盗改メになった。

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コメント

「業績をたどる」沢山の話題が盛り込まれていて
どれから探索していきましょう。

このブログの特徴であり貴重なところは、これまでの
コンテンツへ簡単に遡れる所です。

今日もリンクサインの出ている「野槌の弥平」をクリックしたら
一年半前(2005,1,25)の「盗人探索日録」が一瞬のうちに
アップされました。

 

投稿: みやこのお豊 | 2006.06.13 21:13

あまり、いわれませんが、過去のコンテンツと容易に関連させられるのも、ブログの大きな特徴だとおもっています。

もちろん、遡るだの情報価値のあるコンテンツであることが第一ですが。

投稿: ちゅうすけ | 2006.06.14 02:03

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